オロオロと慌て出す朔くん。当たり前だよね、急に泣いたりしたら、朔くんだってビックリするに決まってる。


 「どうした、斎藤?」

 私の背中をポンポンと優しく叩く朔くん。今までの朔くんは、こんなこと絶対しなかった。


 王様みたいな絶対的な存在で、自分の考えがいつも正解で、他人のことなんて知らん振りだった朔くんが、今は私を心配してくれている。

 朔くんをこう変えてくれたのはーー結衣だ。


 「私、結衣が言うほど、いい子じゃない…っ!」

 心のどこかで結衣に劣等感を感じていたし、どこかで疎んでいたと思う。


 結衣は友達を作ることに慣れていないから、どんなに私が嫌な子でも、離れていかないだろうなんて、ズルいことも考えた。



 「結衣のこと、邪魔とか…思ったし、心の中では腹黒いこともたくさん考えたし、「でも。」

 優しい朔くんの声が、私を宥めるように言う。


 「結衣のための、涙じゃん、それ。」

 結衣と仲良しだし、怒られてもおかしくない状況なのに、朔くんは優しく笑っていた。


 「斎藤は、すげぇ優しいよ。」


 「だから…っ!」


 「そんな自分に嫌悪感を感じながら頑張って来たんだろ?ーーすげぇよ、斎藤。」

 そう言って優しく私の頭を撫でる朔くんに、また涙が出た。


 朔くんが、好きだ。でも、結衣は大好きだ。