あたし、猫かぶってます。



 早瀬が嘘をつくのが上手で、色んな女の子を平気で騙すようなカスだったら良かったのに。


 「もう、結衣なんか好きじゃないからーーまた一緒に居たい。」

 なんて顔してんの。嘘下手くそ過ぎだよ、早瀬。



 「安心しろよ、俺は棗と付き合ってるし、もう結衣と奏多が付き合っているの応援してるし!」

 優し過ぎる早瀬の嘘が、バカみたいにあたしの気持ちを揺らしていく。揺れたくない、動きたくないの。ねぇ。


 「…無理、ごめん。」

 あたしには、早瀬の他に奏多や麻紘や知奈ちゃんが居るけど、奏多にはあたししか居ないから。あたしだけは、奏多のそばに最後まで居なきゃ。


 「ーーーだよな、」

 苦笑いしながら、あたしの腕をそっと離す早瀬に、ズキリと胸が痛む。あぁ、ダメじゃんあたし。結局、中途半端に関わるから、早瀬を傷付けるんだ。




 「結衣、一つだけ聞かせて。」

 小さい声でポツリと呟いた早瀬の声に反応して、振り返る。


 「俺のこと、嫌いになった…?」

 いつもみたいな強気な早瀬じゃなくて、今にも泣いちゃいそうな早瀬の声。ほら、棗ちゃんが好きなんて、結局は誤魔化しだったんだよ。



 あたしは早瀬の問い掛けには答えずに階段を降りて、誰も居ない空き教室にフラフラと入る。


 心にポッカリ穴が空いたようなこの気持ちには、何を埋めれば穴は埋まるのだろうか。

 早瀬のことを嫌いになれるはずなんか無くて、むしろ私はーー


 「大好き、だし。」

 でもね。だからこそ、消したいんだよ、早瀬。

 あたしが幸せにしてあげなきゃいけない相手は、きっと早瀬じゃないから。


 だから早瀬も、早く忘れてくれなきゃ、困るんだよ。


 あたしも早瀬も、幸せにしなきゃいけない相手は他に居るんだから。幸せそうな早瀬を見るまでは、中途半端に仲良くなんか、出来ない。

 あたしと前みたいに戻りたいなら、早く棗ちゃんと本当の意味で幸せになってよ、早瀬。