その日から、早瀬の話をお互いにしなくなった。あたしはもちろん、奏多だって早瀬の話をしなくなった。
そして、
「結衣、今日どうする?」
あっという間に1ヶ月記念日。毎日のように奏多の部屋でビデオを見たり漫画を読んだり。高校生のカップルがするようなことをやっていた。
そのうちに、早瀬のことを考える時間が少しずつ減っていって、重かった気持ちも、少しずつだけど軽くなっていくのが分かった。
ーー最近は、早瀬を見ても前ほど苦しくないし。
「プリ撮って奏多んち行こ。」
そう言うと、ふんわり笑って「じゃあ、帰りに」と言って、あたしの教室を後にする奏多。
自然とあたしまで笑顔になってしまう。
奏多と別れて、なんとなく屋上前の階段に行きたくなり、足を運ぶ。最近は本当に、気持ちが軽くなった。きっとあたし、奏多を好きになれてるんだ。
そう思いながら、階段を一段一段と上がっていくと、
「っせーな。朝から電話すんな、調子乗んな。」
聞き覚えがある、不機嫌な声が聞こえて。あたしの足がピタリと止まる。
「棗、好きだ。ーーって、言えばいいんだろ?」
この声は、早瀬だ。
慌てて階段を降りるあたしの腕が、グイッと掴まれる。
「…結衣?」
わお、なんてバットタイミング。

