「そっか、」
俯きながら、必死に動揺を抑える。絶対絶対絶対、泣いたりしちゃだめだ。普通に流さなきゃ、不自然な反応しちゃだめだ。
「結衣、こっち見て。」
優しい奏多の声に、カチカチに固めた心がジワジワ溶けていく。
「あ、早瀬と棗ちゃん、次は別れないといいなー!」
らしくない笑い方。らしくないテンション。こんなの全然あたしらしくない。
「結衣、見てよ。」
グイッと、顎を引かれて。無理やり奏多の方を向かせられる。ーー強制的に目が合う。
「結衣、傷付いてるって顔してる。」
逸らすことも出来ない、否定することも出来ない、身動き出来ない感覚に、泣きたくなってくる。
傷付く資格さえも、あたしには無いんだから。あたしにはもう関係無いことなんだから。ーーだって、奏多があたしの彼氏なんだよ?
「別に、早瀬がどうとか、あたしには関係無い…っ!」
なんで奏多は、あたしの気持ちを試そうとするんだろう。あたしの気持ちを見透かして、分かっているくせに、傷を抉るようなことを言うんだろう。
「ーーごめん、意地悪し過ぎた。」
そう言って、優しくあたしを抱き締める奏多。
きっとあたしは、ちゃんと早瀬のことを吹っ切ることが出来るのかを奏多に試されているんだ。
あたしは、奏多を裏切ったりしないのに。

