あたし、猫かぶってます。



 もやもや、ずきずき、ほわほわ。みたいな、表現しにくい感情が心臓から胃にかけてグルグル回っている。

 安心しているのに、どこか不安。満足しているのに、どこか不満。楽しいのに、どこか悲しい。好きなのに、どこか違和感。奏多なのに、どこか早瀬。


 って、最後のは撤回。こんな2人の男を行ったり来たりな発言、2人のファンに殺されかねない。

 あたしはヒロインなんだから、黙って奏多に守られて、キュンキュンしてればいいんだよ。うん。


 「結衣、どした?」

 そう言いながら、ゆるくあたしを抱き締め返す奏多。いい匂いする、なんか落ち着く。


 「なんでもない、」

 涙も出なくなったから、ゆっくりと身体を離す。自分が悪女過ぎて、笑えない。


 この前ドロドロ系のドラマでやっていた、悪い女は2人の男の気持ちを弄んで結局は金持ちの方と結婚した。



 ああいう風にはなりたくないけどーー

 「あたしも、奏多が好きだよ。」


 いくら奏多を傷付けたくないからって、自己暗示みたいなものをかけてまで、奏多を自分を騙すあたしだって、そんなに変わらないじゃん。


 こんな性格だし、いつか本当に全部無くなって1人になっちゃいそう。そして、そんな自業自得なあたしにきっと奏多は優しい言葉をかけて抱き締めてくれるんだろうな。

 なのに、なんであたしは奏多に優しい言葉の一つもかけられないんだろう。




 そもそも、奏多を好きになって早瀬をどうでもいいって考えるのも、奏多を裏切って早瀬とリア充になるのも、なんか自分的に許されないと思う。


 早瀬を消さなきゃいけないけど、絶対忘れちゃダメだし、早瀬を想っていても、奏多を裏切っちゃダメ。


 どっかのタラシみたいな発言。あたし、お疲れ。