それから、俺は早瀬に優しくしたり、親切にしたり、あれこれしてみたけれどーー早瀬は得意の作り笑いで俺をかわす。


 この、クソ女。

 なんて思ってしまうことも度々。しかも早瀬俺を他の男と同類に扱うし。なんか、気に入らなかった。

 挨拶も、雑談もしているのに、ある一定の距離を保たれているような、そんな早瀬の態度にムカついて、

 ーー我慢の限界に達した俺は、早瀬に聞こえるように悪口を言ったり、あからさまにを無視していた。


 幼なじみの秋村奏多には、ずいぶん可愛い笑顔で話すくせに、ずいぶんと俺には可愛くねぇ笑顔で挨拶するよな、結衣ちゃん?


 早瀬は、絶対性格が悪い。俺が言うんだから、間違い無い。だから、あからさまに無視したりしていれば、いつかは早瀬が俺に本性を出してくるはずだ。

 ーーーそれで俺は弱味を握って、早瀬を…



 早瀬を?

 よく考えて気付く。俺って早瀬の弱味を握ってどうしたいんだ?ーー困らせる、泣かせる、脅す。

 どれもなんか違うような気がした。


 「早瀬くん、おはよう。」

 いつもの早瀬スマイルで俺に挨拶をする。返事なんかしてやらないのに、めげずに毎日挨拶をする。

 大嫌いなモノを見るような目で俺を見るくせに。矛盾してる。

 俺、知ってんだからな。テスト結果の貼り紙の前で早瀬が俺の名前の横にボールペンで小さく【クソ】って書いたの。陰険なんだよ、クソ女。

 俺がクソ早瀬なら、お前もクソ早瀬だっつーの。


 なぁ、何考えてんだよ。ーーーー早瀬結衣。



 ーーー早瀬が気になって気になって仕方なかった、高2の5月。