ギュッと、あたしを抱き締める早瀬。その温もりが悲しいくらい伝わって来て。なんていうか、痛かった。


 数ヶ月前まで、学校で一番大嫌いだった存在だったのに、こんなにも大切な存在になっていたのに気付いたのは本当に今更で。

 早瀬があたしを強く抱き締めるほど、あたしの胸も強く締め付けられているような気がした。


 「結衣が世界一大好き。マジで好き。」

 あの頃は、反発して認めようとしなかった告白の言葉さえも、こんなにも容易くあたしの胸の奥に響いている。


 大切とか、好きとかじゃ表情出来ないような気持ちが喉元まで込み上げて来るのに、ーー言葉に出来ない。だから、


 「ーーー結衣のこと、ちゃんと諦めるまで、もう結衣と話さない。」

 きっとこれは、今まで他人をバカにしてきた優柔不断なあたしへの天罰なんだ。


 「嫌いとかじゃない。けど、妥協したら無理やりにでも奪っちまいそうだからさ。」

 切なく笑う早瀬に、ギュッと胸が締め付けられる。





 「ーーーーお前を好きになれてよかった。」

 そう言ってあたしに触れるだけのキスをして、愛しい人を見るような顔であたしを見て、口を開いた。


 「幸せ、なれよ。」

 ーーーガチャッ


 ドアを開けて、出て行く早瀬。追いかけることも出来ずに玄関に座り込んだままのあたし。


 ずっとあたしにベッタリだった早瀬が居なくなるなんて、あたしには想像が出来なかった。

 数日経てば、またウザイくらい付きまとってくるようになるんだと、早瀬との繋がりは切れたりしないと思っていたのにーーー




 その日から、本当に早瀬との繋がりは無くなってしまった。