「あ、いえ……
 あたしは傘、あります……」


そう言って、少しだけ持ち上げて折り畳み傘を見せる。

上沢先輩は、その傘へ目線を移すと、


「そか。いいな」


と、ただ笑っていた。


傘も一本しかないし、
この時初めて上沢先輩と話したほどだし
このまま一人で過ぎ去ろうと思った。


空を見上げて、雨が注ぐ雲を見た。

雨はまだまだやみそうになくて……



「あの……
 駅まででしたら……入っていきますか?」



いまだに壁にもたれかかる上沢先輩へ振り返った。


駅まで出れば、コンビニもある。
そこでビニール傘くらい売ってるだろうから、自分の最寄駅から必要なら買えばいいだろうし……。



「マジ?
 超助かる!ありがとな!!」



そう言って、
まぶしいくらいの笑顔を向ける上沢先輩に、
トクンと少しだけ鼓動が高鳴った。