「はァ、あっ、動い、たっ!」




急に動いた石につられ、体制を崩した身体は地面に膝をつき、行衣が泥に塗れる。

だが、そんな事よりも蛇に頬笑み掛ける。




「良かったね、お前。これで自由に何処へでも行けるよ」




表情の読めない赤い瞳が、此方を見る。

ゆっくりと挟まれた尾がうねうねと動き、確認するように2、3度繰り返す。

そしてまた此方に顔を向ける。



「どうした? ほら、行きなよ。今度は石に挟まれないように気を付けるんだよ」



再び頬笑み掛けると、今度こそ白い蛇はゆっくりと身体をうねらせ茂みへと消えて行った。



「あたたた……」



地面に着いていた手のひらを確認すると、所々皮が向けたり、切れたりで、血が滲んでいる。

石を全力で押していたのだ、こうなっても可笑しくはない。

これで蛇の自由が得られたのなら勲章にもなろう。



誇らしげに思い、生命の滝に向かって歩き出した私の気持ちはすぐに打ち砕かれる事になる。




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「貴様は儀式を愚弄する気か! 泥に塗れた行衣で生命の滝に打たれようとするなど言語道断!」

「……申し訳ありません」

「人間風情が雨龍様の御子を身籠る事がどれだけの名誉か、貴様は分かっていない」

「……ご無礼をお許し下さい」

「貴様の様な物が神聖な領域に居ること自体、腹立たしいのに、更には儀式にそのような格好で現れるなどと……!」





先ほどの誇らしい気持ちはガラガラと音を立てて崩れ去る。

清蓮のお説教はかれこれ30分は続いているが、煮え立った腹は収まらないらしい。

言葉の度に謝罪を入れるが、鬼の形相は変わらない。