神様と愛語


暫く他愛ない話をすると、襖が開き、従者の波津がお盆にお茶を乗せ入ってくる。

私に気づき、薄く微笑む。



「おや、もう落ち着かれましたか。まったく、ここの館の連中は菓子の用意すらなようですよ」

「すまないな、波津。志乃、茶を飲み、その後、庭を散歩しないか?」

「え、あの、そんな、私が、ですか?」



“神”と言う絶対的存在を払拭は出来ない。

此処に来てから朝から晩まで聞かされる言葉。


余所者、人間風情、神の領域に入る害。

神の御子を授かる母体だけの存在。



そしてどれだけ神、雨龍夜刃神が尊いのか。



目の前にいる幼いが神様である彼に対してもその思いは強くある。

一種のマインドコントロールだと言う事は自分でも自覚はあったが、拭う事が出来ない。

気づかぬうちに握り締めて白くなっていた手に緋蛇様がそっと自身の手を添える。

びくり、と条件反射に体が震える。



「……志乃、余を見ろ」



優しい声色にゆっくりと下がっていた視線を上げる。

色素の薄い肌と反して、血潮色した瞳が暖かい温度でこちらを見ていた。



「目がふたつ、鼻がひとつ、耳がふたつ、口がひとつ。何一つ、志乃と変わらん」

「……え」

「同じものをもつ、同じ生き物じゃ。すぐにとは言わん。そうじゃな、“友”と思って接して欲しい」



心臓が揺れる。

比例して視界が涙で滲む。



「……どうして、そんなに優しくしてくれるのですか? 言葉は悪いかもしれませんが、此処ではわたし、道具の様に扱われている気分になります。……実際、道具なんだろうな、ってわたしも思ってます」



口から零れだす言葉。

ああ、わたし、此処に来てからこんなに話したことあったっけ。



「だから、緋蛇様や波津様が、わたしにここまでしてくれる理由が分かりません。……ごめんなさい、正直怖いです」



赤い瞳から逃げるように視線を畳に移す。

でも、先ほどより心臓が爆発しそうに早鐘打つこともなく、どこか他人事のように己のことを考えていた。