俯きながら先輩のことを考えてた。

少し茶色がかった目が、優しく笑っていた。
いつもと変わらずマスクをしていて、顔全体を見ることはできなかった。
もう、声を忘れた。
声を聞きたい。

そう思ってたときに、

「なんかめちゃくちゃかっこいい先輩廊下歩いてるよー?」

「え、まじー?ここ1年の廊下なのにー?」

「見にいこー!」

廊下が騒がしい。好奇心でみてみると

「あっ!」

あの、先輩。
助けてくれた先輩だった。

パチッ

その先輩と目があった。
こっちへ向かってくる。

「え、何?」「こっちくるよー?」「誰々?」

そして、先輩は止まった。
みんなの視線が一気に集まる。
そう。先輩はあたしの前で止まった。

「えっ、あのっっ///」

焦ってる。落ち着け!あたし!!!

「これ...」

先輩が差し出したのは、1冊の本だった。
あたしの本...

「この前、転んだとき。落としたんじゃない?...」

「えっ!あ、ありがとうございます!」

そう言って本を受け取ると、先輩はニコっと微笑んで、また、歩いていった。

そのまま立ち尽くしていた。

騒がしかった廊下もやがて静まり返り、私の胸だけが何故か大きく波打っていた。