映画館でチケットを買う。


チケット売りのお姉さんは、結城の顔を見ると一瞬動きが止まった。
それから後ろにいる奈々子の顔をみると、不思議そうな顔をする。


「どうしてわたしみたいなのを連れてるのかわかんないんだろうな」
奈々子は自嘲気味に考えた。


「ポップコーン食べる?」
結城が訊ねる。

「えっと、どちらでも」

「映画が終わったらランチだから、食べるのをやめておこうか」

「はい」

「奈々子さんは、敬語やめらんない?」

「……無理です」


結城は奈々子の顔を見ると笑った。


ほんとに何がそんなにおかしいのか。
やっぱりからかわれてるのか。


するとカシャッと音がした。
振り向くと高校生ぐらいの女の子達が、結城を携帯で撮影していた。


「須賀さん、今写真とられましたよ」

「そう?」

「気づかないんですか?」

「うん」

「あんなに堂々と撮ってたのに」

「気にしてたらきりがないよ」

「慣れてるんですね……」

「うん。しばらくするとツイッターかなんかで流れる。映画館で発見とか言って」
結城が笑った。

「しんどいでしょう?」
奈々子は思わずそう言った。


結城は驚いたように奈々子を見て、それから
「実を言えばね。だから自然と家にこもるようになるんだ。こんな風に映画館に来るのは久しぶりだから、楽しいな」
と言った。


奈々子は結城のきれいな横顔を眺める。
肌はつやつやで、まつげがながい。
口元は静かに微笑んでいて、おかしな話し、女性でもこんな美人はいないだろうと思う。

いろいろ苦労があるんだな、と奈々子は思った。

「もう、入れるよ。行こう」
結城が促した。


席につくと、とたんに奈々子の緊張が高まる。
こんなに近くに座ったことはこれまでなかった。
ちらりと結城を見ると、奈々子の方を見ている。
慌てて顔を伏せた。


「このままじゃ緊張で倒れる」


奈々子は胸に手をあてて、深呼吸した。