診察室に戻ると、まだみんな先ほどの人物について、興奮ぎみにおしゃべりをしていた。
昔ながらの診療所。
かず子先生は六十半ばのおばあちゃん先生で、いつもおおらかでゆったりとしている。
肩までのパーマをかけた髪は、白髪まじりだ。
奈々子はこの先生がとても好きだった。
かず子先生は白衣を脱ぐと椅子にかけ
「上でごはん食べてくるから、みんなもごはんいってらっしゃい」
と言った。
「はい」
残りの四人は一斉に返事をした。
かず子先生はその様子にちょっと笑って、診察室脇の扉から外に出て行った。
この診療所の二階に自宅があり、先生はかならずそこで食事をした。
「わたしお弁当持って来ちゃったから、ここでごはんかな」
鈴木看護士が言った。
彼女は一児の母で、三十代半ば。
メイクをしなくても、彼女の肌はつやつやで、切れ長の目が印象的だ。
長い髪をまとめて、ナース帽をかぶっている。
「みんなでお弁当を買って来て、ここでごはんにしちゃおうか」
八田看護士が言った。
彼女は大学付属病院でキャリアを積んだ後、この診療所に来た。
五十手前のかっぷくのいい女性だ。
まんまるの眼鏡をかけていて、いつも笑っている。
「いいですね。そうしましょうよ」
珠美がぱちんと手を叩いた。
彼女は奈々子をみて「いいよね」と問いかける。
奈々子は「もちろん」と答えた。
医療事務の珠美は、奈々子と同じで二十六歳。
二年前にこの診療所に来た。
明るくて周りを華やかにする。
背は小さく、まんまるな印象。
彼女はいつも「ダイエットしなくちゃ」と言っているが、今まで成功したためしはない。

