家に帰ると、まだ結城は帰宅していなかった。


リビングの電気をつけ、窓を開ける。
涼しい風が室内に入り込む。

お酒を飲んだ訳じゃないのに、いやに身体がほてっていた。


また明日会うのに。

拓海は溜息をつく。


玄関が開く音と鍵の鳴る音がした。
振り向くとリビングに結城が入って来ていた。


「おかえり」
拓海は窓から離れ、キッチンへと行く。
水か何かを飲んで、気を紛らわせたかった。

「ただいま」
結城はスーツの上を脱ぐと、ソファへと放り投げる。
シルバーのネクタイを指でゆるめ、それもソファに放り投げた。

「片付けろよ」
拓海は言った。

「あとで」
結城はそう言うと、ワイシャツのボタンを外してから、ソファに倒れ込む。
「つかれた」

「仕事?」
拓海は冷蔵庫から二リットルのコーラを出した。
「お前も飲む?」

「うん。ありがとう」
結城は姿勢を変えずそう言った。


拓海は二人分のコーラを用意すると、結城の目の前のテーブルに置く。
それからラグの上にあぐらをかいて座った。


「俺、気を使ったりするの苦手なんだ」
結城が起き上がり、コーラに手を伸ばす。

「わかるよ」

「お前はいつも人に好かれるな」
結城がちらりと拓海を見た。

「……そうかな。だって、俺が他の人を嫌わないもん」

「それ重要」
結城が笑った。

「なあ、女の子ってさあ、どんな気持ちでセフレでいいから声かけて、なんて言うんだろ」
拓海は訊ねた。

結城がびっくりした顔で拓海を見る。
「言われたの?」

「いや……ドラマの話しだよ」
拓海はそういってごまかした。

「だよな。お前に限って、そんな女の子がいるわけないし」
結城は鼻で笑う。

「馬鹿にするなよ。俺もそれなりにあるんだ」

「へえ」
結城が疑い深そうに拓海を見る。

「俺ならまだしも、おまえが?」
というようなその態度に、拓海は毎度のことながら腹が立つ。

「イケメンだって言われたぞ」
拓海は口惜しさからそう言う。

「その子コンタクトしてなかったんじゃない?」

「ああ、腹立つ」
拓海は勢い良く立ち上がった。

「冗談だよ」

「知ってるけど、腹立つんだ」
拓海は口を尖らせた。