「今日、スカパー無料デーだよ」
結城はソファに置いてあったリモコンで、テレビをつける。


古いサスペンスドラマがやっている。
刑事役の俳優は、もうかなりの歳のはずだ。


結城はどんどんチャンネルを変えていく。
それから「あ、これ」と言って、音楽チャンネルを見始めた。
サザンのライブ映像だ。
懐かしい曲が流れてくる。

二人はしばらく並んでその映像に見入った。


「何歌ってるかわからないけど、でもなんだか泣けるんだよね」
ビールのグラスを片手に、結城が言った。

「歌でも泣くんだ」
奈々子はちらりと横を見ると、結城はテレビに見入っている。

「この曲は特に」
結城は足の上に肘をついて、ほおづえをつき、目を閉じた。


「拓海がこの曲を好きで、死ぬほど聞いてた。周りはポータブルのプレーヤーを持ってたけど、俺たちは持ってなかったんだ。だから夜、母親が仕事にでかけた後、拓海と二人で部屋の中で聞いた。それこそ何百回と」

結城はそう言って笑った。


「本当にいつも一緒だったんですね」
奈々子は結城の横顔を見ながら言った。


「毎日、あいつが笑ってるか、怒ってるか、泣いてるかを見るんだ。ここに引っ越して来てからは特に。あいつは笑っていても、中は空っぽっていう時期が長かったから。だから、俺が異変に気づかず見過ごして、内側からあいつが崩れてしまったらどうしようって、怖くてたまらなかったな」

結城はグラスをテーブルに置いた。

「それももうおしまいだ」


「……」
奈々子は黙って結城が続けるのを待った。


「俺のすべてがあいつに占められていた。俺のすべて」
結城は笑う。


「拓海さんが、須賀さんは自分のために生きて来たって言ってました」

「そう……」
結城の顔はテレビからの青白い光に染まっている。
表情はなかった。

「泣いてもいいですよ」

「うわ、やめてよそんなこと言うの」
結城はソファに転がって、クッションを抱いた。
「泣く訳ないだろ」


懐かしい曲が流れる。
目を閉じると、歌の風景が見えた。