エスカレーターに乗り、地上にあがる。


夜気が冷たい。
空は濃紺。
星は見えない。

二人で並んで歩き出した。


「明日はどうしますか?」
奈々子は結城を見上げ訊ねた。

「……どうしたい?」

「必要なら、どこかに行きましょう」

「うん……明日は拓海もいないし、必要はない、かな」
結城が微妙な顔をして言う。

「わかりました」

「一日中、ビデオ見る」
結城が笑って言う。

「わかりましたって」
奈々子も冗談めかして、言葉を返した。


右側の大通りに、たくさんの車が通り過ぎる。
歩道を歩く人は少ない。


駅の改札が見えて来た。
二人で改札を通り抜けた。
たくさんの人がホームへの階段を上がって行く。

なんだか埃っぽかった。


「じゃあ、ここで」
結城は階段前で立ち止まった。

「はい」
奈々子は言った。

「気をつけて」
結城はそう言うと、奈々子に背を向け、ホームへの階段を上がって行く。


紺色のジャケットを着た背中。
ロールアップしたベージュのパンツに、黒革のスリッポン。



本当に一人で大丈夫かな。


部屋に一人でいる結城を思うと、自分のことのように切ない気持ちになった。



愛する人を見送る気持ちって、どんなだろう。



奈々子は胸の中の痺れるような痛みに目を閉じる。
それから反対のホームの階段を上り、家路についた。