ゲームセンターでしばらく時間を過ごした。
結城はなんでも上手にこなせる。
奈々子と言えば、どれもこれもうまくいかず、だんだんと嫌になってきた。
「奈々子さん、反射神経ゼロだね」
ゲームセンターの隅にある休憩コーナーでペットボトルの飲み物を買って、ベンチに座って休憩した。
ゲームセンターは、禁煙にも関わらずなぜか煙っぽく、白く霞んで見えた。
コインと電子音も相変わらずうるさい。
「もう須賀さんとは来ない。意地悪ばっかり言うんだもの」
「意地悪じゃあないよ」
「慰めてくれてもいいじゃないですか。からかってばっかりで」
「だって面白いんだもん」
結城はボトルを飲み干した。
「ほんと、意地悪」
「もう言わないよ。ごめんごめん」
結城が腕時計を見る。
「もう十一時すぎた。奈々子さん電車がなくなっちゃう。帰らなくちゃ」
「須賀さんも帰りますか?」
「拓海がいないから、天国。 AV見放題だよ」
「ええ?」
奈々子は思わず顔をしかめた。
「世の中の男子は、みんな見る」
「そうかもしれないけど……」
奈々子は複雑な気持ちになる。
「女の子だって見るよ」
「見ません」
奈々子は真顔で抗議した。
「そうなの?」
「当たり前です」
「ピュアだな、奈々子さん」
結城は笑ってペットボトルに口をつけた。
「須賀さんがビデオ屋に借りにいくんですか?」
「最近はネットで借りられるし、ネット上にいくらでもあるから」
「なんかな……」
「なんだよ、がっかりしたみたいな顔で」
「あのブログの子に全部しゃべりたい」
「やめろよ、イメージ崩れるだろう?」
「そんなこと気にしてたんですか? どうでもいいみたいな顔してたのに」
「そりゃ、写りがいいに決まってるだろう? わざとイメージ落としてどうするのさ」
「注目されるの嫌いって言ってたじゃないですか」
「俺の唯一の武器だよ。有効活用するんだ」
「ナルシスト」
「違うよ。鏡の前に一時間もいないもん」
結城は心外だという顔をした。
「でも自分をかっこいいと思ってる」
「そりゃ、悪くはないよ。謙遜はしない。でもさ、物心ついたときから、あらゆる人に『きれいですね』とか言われ続ければ、『そうなのかな?』って思わない。思わないやつがいたら、そいつは究極の悲観主義者だ」
「もっともだけど、やっぱりなんだかな……」
奈々子は笑って首をかしげた。
「さあ、帰ろうか」
結城は立ち上がり、空のペットボトルをゴミ箱に入れた。がたんという音がする。
「駅まで一緒に行こう」
「はい」
奈々子は立ち上がり、飲み残したペットボトルを鞄に入れた。