「お腹いっぱい。でもデザートも食べたい」
ゆきがお店の外で言った。

「食べ過ぎだよ。デザートは禁止」
拓海は怒った振りをしながらゆきに言う。

「ケチ」
ゆきはそう言うと、笑った。

「拓海は今日帰る?」
結城はジャケットに手を入れながら訊ねた。

「いや、このままゆきのうちに行く。いい?」

「聞くなよ。別にかまわない」
結城が笑った。

「奈々子さん、今日はどうもありがとう」
拓海が奈々子の目を見て言った。


奈々子は笑顔で会釈する。


「奈々子さんちに行く?」
拓海が結城に訊ねる。


「どうしようかな」

結城が奈々子を見るので、
奈々子は笑顔で「どっちでも」と答えた。


「じゃあ、また。ゆきさん、今日はありがとう。気をつけて帰って」

結城はそう言うと、奈々子の手をさりげなくつないだ。



結城に手を引かれながら、お店の前から歩き出した。
結城の横顔を見上げると、能面のように表情がない。

結城の心を思うと、奈々子は切なかった。



しばらく二人は無言で歩いた。
結城の歩調はいつもより少し早い。
奈々子は大股で彼の後についていった。

再び見上げると、結城が視線に気づいて立ち止まる。

奈々子を見て「ごめん」と言った。



大きな家電量販店の前。
蛍光灯の白い光に結城と奈々子の長い影が浮き出る。


「振りをするのは、しんどいだろう?」

「いえ、ぜんぜん。意外にわたし、うまいなって自分で思いました」
奈々子は笑顔でそう言った。

「奈々子さんがつらいなら、もう辞めてもいいんだ」

「わたしよりも、須賀さんがつらいんじゃないかと」

「別に大丈夫だよ」
結城はそう言ってから

「……もう奈々子さんに取り繕う必要はないんだったな」とつぶやいた。

「寂しい」
結城はそう言って力なく笑った。
「ずっと一緒だったから。いつかこんな日が来るだろうと思ってたし、覚悟はしていたけれどね」

「そうですよね」
奈々子は頷く。


「ちょっと遊んで帰りましょうか」
奈々子は提案した。

「遊ぶ?」
結城が首を傾げる。

「この量販店の地下に、ゲームセンターがあるんです。行きましょう」

「そういう遊びか」
結城は納得して笑顔を見せる。