冷房の動く音がする。


風が奈々子の汗ばんだ肌を冷やして行った。


結城は後ろから奈々子を抱きしめ、耳にキスをする。

愛おしそうに何度もキスをした。
結城は汗で濡れた奈々子の前髪をその大きな手でかきあげる。
生え際にも、それからおでこにも、キスをした。


奈々子は再び涙が出てきた。
結城が涙を手で拭う。

「泣かないで」

「うん」
奈々子はうなずいたが、声が震えてしまう。

「後悔してる?」

「ううん」
奈々子は首を振った。
シーツを握りしめて、嗚咽を堪える。

「……ごめん」
結城が奈々子の肩に唇をつけた。

「ううん。違う」
奈々子は再び首をふる。

「こっち向いて」
結城が言う。


奈々子が身体を向けると、結城が奈々子を抱き起こして、自分の膝に乗せた。
月明かりが結城の身体を照らしている。

雨はあがったようだ。

結城は奈々子の髪を手ですく。
それから頬に手をあてた。


「まだ痛い?」

「……ちょっとだけ」

「初めてだ」
結城は小さく溜息をついて、奈々子の胸元に顔を埋めた。

結城の息がかかる。
奈々子は目を閉じた。


「冷静でいられなかったのは初めて。どうしたんだろう、俺……おかしくなっちゃった」


奈々子は結城の髪に手を触れる。
結城は顔を上げ、奈々子の頭を引き寄せ、再びキスをする。


「初めてのことがたくさんありすぎて混乱する。本当はもっと気を使って、時間をかけて、て思ってたのに……。こんな狭くて汚い俺の部屋でなんて」

「ごめんね」

「私が望んだのだから……後悔はないです」
それから奈々子はまじまじと結城の顔を見る。

「なに?」

「いえ」
奈々子は言いよどむ。

「気になる。言って」

「でも……」

「いいから」

「男の人でも、声って出るんだなって思って」
奈々子は言った。


そう言うと結城は目を丸くする。


それから顔を赤らめた。


奈々子を膝から下ろすと、シーツを勢い良くかぶる。


「いじめた」
シーツの下で声がする。

「いじめてませんよ」

「うそだ。いじめてるんだ」

「違う。からかってるだけ」


奈々子はそう言うと堪えきれず笑い出した。


「この!」

結城はシーツの下に奈々子を引っ張り込む。

二人は笑いながらキスを交わし、
視線を交わし、
笑みを交した。


シーツにくるまりながら、結城が奈々子の身体を抱き寄せる。


「今度は……男と女がどうしてこの行為に夢中になるのか、じっくり時間をかけて、教えるから」
そう言って微笑んだ。