火曜日の午前中、結城が診療所にやってきた。
いつもと変わらない、魅力的な笑みを浮かべて、みんなと楽しく話し、そして帰って行った。


奈々子の顔は一度も見なかった。


お休みの間のことは、まるでなかったかのように。


奈々子という存在は、もともと結城の中になかったかように。


連絡もない。
何もかも。


返事がないときはとことんなくて、会ったときにはすっごく甘い。
そのギャップがたまらないんだ。


そう言ってた紗英を思い出す。


邦明の顔をみて「これでいいんだ」と思った。


林さんが電話をしながら、トイレから出て来た。
ごめんね、というように手でジェスチャーをしてから、外に出て行く。


扉がガラスなので、林さんが電話しているのが見えた。
すぐに電話を終えて戻ってくる。


「いや、ごめんね」

「大丈夫?」
珠美が聞いた。

「須賀がさ、まだ会社で仕事してるみたいなんだけど、今夜提出の書類に目を通して、サインして欲しいっていうんだ」

「会社に戻る?」

「いや、サインだけだから。須賀が持ってくるって」

「え?」
珠美の顔色が変わる。


林さんはその様子をみて、不思議そうな顔をした。


「いやいや、あの顔をこの場に同席させるなんて野暮なこと、しないよ」
林さんが冗談めかして言った。

そして邦明さんに
「おっそろしいほどのイケメンなんですよ。あんな顔、他で見たことないです」
と言う。

「ええ、そりゃ、見てみたいですね」
邦明が言った。

珠美が慌てて
「やめた方がいいよ。邦明落ち込んじゃうから」
と言った。