ベッドの上にゆきが座り込んでいるのが見えた。
スカートがまくれ、白い太ももが見える。


首が真っ赤になっていた。


「拓海先生!」
ゆきが叫んだ。

「何された!?」
拓海はゆきに駆け寄った。

「俺たちは話し合ってたんだ。邪魔をするな」
男が叫ぶ。

「これは話し合いじゃないだろ? 暴力だ。警察を呼ぶぞ」
拓海はゆきをかばうように、男の前に立ちふさがった。


身長は拓海の方が小さい。

男は鼻で笑う。


「こいつは、俺の女なんだ。ちょっとした行き違いで、喧嘩しただけなんだよ」

「出て行って!」
ゆきが拓海の肩越しに叫ぶ。

「おい!」
男は拓海を邪険に脇にどけ、ゆきにつかみかかった。


頭に血が上る。


拓海は男のシャツをつかみ、思い切り顎を殴った。


すごい音がして男はふらつく。
そのままよろよろと尻餅をついた。
男の唇から血が流れ出る。


拓海は男の腕を引っ張り上げ、もう一度殴った。
今度は鼻から血がでる。


男は驚きのあまり目を見開き、反撃することも忘れてしまったようだ。


「もう彼女につきまとうな! 彼女に何かしたら、殴られるだけじゃすまないからな」

「せ……先生」
ゆきは拓海の腕にしがみつき、泣き出した。


男はよろよろと立ち上がり、玄関から出て行く。


心臓がすごい勢いで動いている。
ゆきの泣く声が部屋に響く。


「ゆき先生、見せて」
拓海はゆきの髪を手でかきあげ、首の傷を確認する。
恐ろしいことに真っ赤に腫れ上がっていた。

「首、締められたの?」

ゆきは泣きながら、頷いた。
「こ、怖かった……」

「大丈夫だ。もう、大丈夫」
拓海はゆきを抱きしめる。


彼女の確かな感触。


拓海は身体の力が抜けていく。
ベッドの上に二人は座り込んだ。


「なんで、一人でこの家に帰ろうなんて思ったんだよ! 危ないのは分かってただろ?」

「き、着替えをとりたくて……」

「俺に声かければいいじゃないか」

「だって、拓海先生……」


拓海はゆきを抱きしめる腕に力を込める。

「よかった……生きてる。生きてる」
拓海はつぶやいた。


ゆきは拓海の腕のなかで、泣きじゃくっている。
小さな肩。

思わずゆきの耳のあたりにキスをした。


どうしよう。


彼女を愛しいと感じている。


ゆきが拓海を見上げる。
涙に濡れた頬。
指で涙を拭う。

それから拓海はゆきに口づけた。


彼女の唇は柔らかく、甘い香りがする。
命の存在を確かめるように、何度も、何度も、何度も舌を差し入れた。
髪の間に指を入れ、頬を触る。
互いが徐々に高まり、息があがる。


「今日は側にいて」
ゆきが言う。


拓海は答えるかわりに、強く抱きしめた。



肉体を持つ人間は、こうやって愛を交換するんだ。
これまで知らなかった。
熱い吐息。
しなやかな身体。
包まれる暖かさ。
肉体的なものよりもずっと深い、究極の快楽。
こんな幸せを知ってしまったら、忘れられなくなる。



彼女を愛してしまう。