幼稚園につくと、すでに鍵は空いていた。


朝の七時半。
子供のいない幼稚園は静かで、そしてひやりとしている。


ひまわり組に入ると、ゆきが出勤してきていた。
クラスの窓を開けている。
ノースリーブにぴったりとしたデニム。


ゆきは拓海に気づくと
「おはようございます」
と振り向いた。


長い髪はポニーテールのように頭の上に結い上げている。
うなじの後れ毛を見て、拓海は動揺した。


「おはようございます」
拓海も挨拶をかえす。

ゆきはにこっと笑って
「今日はわたしバスコースの担当なんです。歩きコースはよろしくお願いします」
と言った。

「わかった」
拓海はうなずく。



ゆきは自分の荷物をもって、職員室へと向かう。
これから幼稚園用のスモッグに着替えるのだ。


拓海はこの幼稚園で唯一の男性職員だ。
なので男性更衣室は用意されていない。
拓海は鞄からスモッグを取り出すと、ひまわり組のなかで素早く着替えた。


幼稚園は遠方から通う子供達のために、バスを出している。
今日はそのバスにゆきが乗るのだ。


子供達が登園してくるまで、あと四十分。
拓海はいそいで支度を始めた。


夏は始まったばかり。


クラスのベランダから園庭に出る。
園庭はそれほど大きくない。
小さな砂場と、大きな遊具が一つあるだけだ。


拓海は砂場のおもちゃを確認し、砂場の雨よけシートを外してまるめる。
遊具についた砂を払い、園庭にブラシをかけて平にならした。
道路に面した金網に、子供達が育てている朝顔がずらっと並んでいる。
拓海はそのひとつひとつにたっぷりと水をやった。