どうしても比べてしまう。
全部が結城と違う。
ビールのグラスを持つ手はがっしりしていて、男っぽい。
男性的な首から肩のライン。
訳のわからない冗談も言わないし、奈々子の常識と邦明の常識はほとんど一緒だ。
結婚するなら、こんな男性がいい。
穏やかで、優しくて、話し上手で、自分といろんな価値観が合う男性。
理想的だ。
珠美が勧めるのもよくわかる。
でもドキドキしない。
奈々子は結城に会いたかった。
「楽しい?」
邦明が訊ねる。
「うん」
奈々子は作り笑いを浮かべる。
十時半をすぎるころ、レストランを出た。
二人で再び駅の方へ歩いて行く。
「奈々子さん、何線つかってる?」
「JR」
「じゃあ、一緒だ」
邦明が微笑む。
ロマンチックなライトアップの中を歩きながら、邦明が突然立ち止まった。
「?」
奈々子もつられて立ち止まる。
邦明が身をかがめて、唇を重ねた。
あっという間だった。
抵抗も、何もできない。
一瞬のことだった。
邦明は照れたように笑って、それから再び歩き出す。
奈々子もふらふらと歩き出した。
足下がおぼつかない。
唇に感触が残ってる。
邦明が何をしゃべっているのか頭に入ってこなかった。
ただ曖昧にうなずいて、そして笑い返していただけ。
「じゃあ、ここで」
邦明が大崎で降りる。
「また連絡するね」
そう言うと手を振った。
奈々子も手を振りかえす。
電車の扉がしまり、奈々子は座席に腰を下ろした。
電車の窓が奈々子の顔を映す。
なんて酷い顔。
奈々子は自分の唇を触った。
キスされた。
初めてのキスを。
奈々子は呆然として、席から立つことができない。
いつのまにか電車はぐるりと一周して品川へ帰って来ていた。
目黒まであとみっつ。
奈々子は目黒駅のホームへ降りた。
駅のショッピングモールはすでに閉まっている。
大半の乗客は私鉄に乗り換えていく。
最終電車はもうすぐだ。

