珠美のリードで、食事の場は盛り上がった。

奈々子もある程度リラックスして話せた。


邦明は珠美の言う通り、とてもいい人のようだった。
職場での話しや、学生時代の話を、おもしろおかしく話す。

会話が上手なのかもしれない。


「会話をがんばる」
と言っていた結城を思いだした。

会話は二人ともうまいが、まったく雰囲気が違う。


同じ男性なのにこれだけ違うのは、とても不思議だと思った。


珠美が時計を見て立ち上がる。


「どうしたの?」
奈々子は隣の珠美を見上げて訊ねた。

「約束があるの」

「うそ」

「彼氏と。じゃあ、後は二人で」
そういうと、さっさとバッグを持って出て行く。


「ええ?」
奈々子は突然不安になった。

「戸田さんはまだ時間、大丈夫ですか?」
邦明が訊ねた。

「は、はい」
奈々子は緊張してそう答える。

「さっき……珠美がお試しで付き合ってみればって言ってましたよね」

「……そうですね」
奈々子は身構える。


邦明は冗談めかして
「それもいいかもしれないなって思うんですけど。どうですか」
と訊ねた。


結城の顔がうかぶ。


彼の仕草。
彼の匂い。
彼の指先が奈々子の指を握った、
その温度。


「おつきあいしてみましょうか」


奈々子はそう答えた。