チェーン展開をしている居酒屋に赴く。
個室を売りにしている居酒屋なので、左右対称に個室が連立している。
そのうちの一つに通された。


「まずビールでしょ?」
珠美がメニューを見ながら言う。

「いいよ」
邦明は手を伸ばして、メニューを受け取る。
それから奈々子にメニューを見せ
「何を飲みます?」
と訊ねた。

「じゃあ、ビールで」


邦明がインターフォンで店員を呼び「生中三つ」と注文した。


「ずっと紹介してよって言ってたんだけど、なかなか連絡こなくてさ」
邦明が肘をついて言った。

「その間に新しい彼女ができてなくてよかったよ」
珠美が言う。

「だって出会いがないんだもん。男の職場だからさ」

「何されてるんですか?」
奈々子が訊ねる。

「建設業。現場にもいくよ」

「肉体労働なんですか?」
しっかり背広を着てるのに、と不思議に思って訊ねる。

「いや、本社から派遣されて、現場を管理する。実際の労働はしないよ」

珠美が
「合コンで知り合ったんだよね」
と言う。

「へえ」

「合コンって言うと、いっつもなんか女の子探してるみたいで、印象が悪いな」
邦明が照れくさそうに言った。

「でもね、人の良さはお墨付きだよ」
珠美が奈々子に言う。

「本当にいい人。恋人にはならなかったけど、友達になれた。おすすめ!」


店員がジョッキを持ってくる。
三人は「出会いに」と言って乾杯した。


「戸田さんは好きな人いないの?」
邦明が訊ねる。

「いないいない」
奈々子が答える前に、珠美が口を出した。

「だからお試しで付き合ったらどう?」

邦明は「強引だな」と言って笑う。
奈々子は曖昧な笑顔を返した。


「あ、携帯鳴ってるよ」
珠美が奈々子に言った。


鞄からかすかなバイブの音がする。


奈々子は鞄から携帯を取り出した。
メールの着信。


結城からだ。


奈々子はちらっと珠美を見る。
珠美は気づいていない。
奈々子はメールを開く。


「怒ってる?」


奈々子は口をへの字にした。
なんで連絡してくるんだろう。
こんな時に。


「どうした?」
珠美がいぶかしげな顔で見る。

「ううん。メール。ちょっと返事する」
奈々子はそう言って素早く
「おこってません」
と返した。

するとすぐに「ほんと?」とかえってきた。

「ほんとうです」

「うそ」

「うそじゃないです」

「じゃあ、なんで敬語?」

「それはいつもです」

「ああ、そうだった。今なにしてる?」

「食事中です」

「誰と?」


奈々子は顔を上げて考える。


「珠美とです」
送信してから、なんで隠す必要があるのかと、自問自答した。


すぐに
「ちょっと取り込み中なので、もう返信しません」
と返した。


あまりにも大人げない発言かな? と考えたが、送ってしまったものは仕方ない。
奈々子はジョッキを手に取って一口飲んだ。