そもそも、ここ私立詞華高校には厳密に言って放送部などという部活動は

存在してはいない。言うなれば我々は、自分たちを勝手に放送部などと呼び、

放送室を占拠して好き勝手やっている集団でしかないのだ。こんなことが

許されるはずがない。まぁ、普通ならの話だけれど。

「――というわけで、御言先輩は謹慎処分が下ったんです」

「あら? もう打ち切りってことでしょうか?」

「そういうわけじゃないですが……」

 前述の、許されるはずがないを許されている状況へと変えている理由が、

現在僕と会話をしている女性――香笛院紅葉(かふえいん くれは)先輩である。

 超がいくつついているのか判定できないほどの大富豪、香笛院家のお嬢様

というのが肩書きだが、香笛院家が何をやって儲けている家なのかは誰も

知らないという謎多き人である。とにかく真相がどうであれ、世界規模の金持ち

であるのは間違いないようだ。

「すぐに処分内容の変更手続きを致します」

「えぇ、お願いしますね、北斗」

「まぁ、いつものことですから」

 紅葉先輩が本物のお嬢様であることを証明するような存在が、北斗と呼ばれた

男子生徒――青山北斗(あおやま ほくと)先輩だ。聞けば、青山家というのは

先祖代々香笛院家に仕えているらしい。つまり、北斗先輩は紅葉先輩の執事を

しているのだ。同学年であるが故に、同じ学校に通いながら。

 ところで、冒頭から話している御言先輩の謹慎処分の件だが、第一回の最後に

発せられた台詞が近隣住民から批判を受けまくったらしく、目標を掲げた初日から

無期限謹慎処分を下されるという、前代未聞のことをやらかしたのだ。伝説を

作ると言った発言は強ち間違いではなかった気もするが。

 そして、そういった処分を金の力で解決しているのが紅葉先輩なのである。

この人こそ何故放送部なんかに属しているのか不明でしかたがないのだが、

御言先輩に無理矢理引き摺り込まれたような印象はない。

「御言ちゃんがいなかったら話が進まなくて、必然的にこの作品が終焉の時を

迎えることになってしまうわね」

「見限るの早いですよ! ……けど、確かに御言先輩がいないだけで一気に

台詞よりも説明の方が多くなりましたからね。あの人あっての放送部ですから」

「せめてテーマでもあれば話に花が咲くものだが……。それも今まで御言に

おんぶに抱っこだったからね。主要人物を失った作品がいかに脆いか、よおく

思い知ったよ」

「北斗先輩までそんなこと言わないでくださいよ。ここで僕らが頑張らなければ

明日はありませんよ!」

 とは言ったものの、この二人に求めるのは流石に無理がある。となれば

僕しかいないわけだが、第二回にしていきなりそんな大役が回ってくるなんて。

「ここはやはり……話のネタは日常の中に転がっているものですから、街に

でも繰り出してみるのが一番だと思います」

「街に……」

「――繰り出すっ!?」

 お二人の表情が強張る。予想だにしない反応に、こちらの方が気後れして

しまう。何かまずいことでも言ったのだろうか、僕……。

「玲司。街ってのはレッドカーペットを敷けるほどスペースに余裕がある場所

なのか?」

「駄目ですよ、玲君。街なんかに行ったら常に百人の刺客に狙われているんだって

御爺様が……」

「どんな感覚で物言ってるんですか! 十分にカーペットだって伸ばせますけど

決してやろうなんて思わないでください! 紅葉先輩も、絶対に騙されてます!」

 僕が言い出したなので非常に肩身が狭い思いなのだが、即刻却下だ。こんな

常識外れの人たちを連れて歩くなんて、十メートル以内に事件が起こりそうで

僕にはできそうにないです。

 あぁ……御言先輩。急にあなたが偉大な人物に思えてきました……。