「蒼天已死、黄夫当立よ!」

 会議開始早々、椅子の上に片足を乗せながら天を指差し、高らかに

部長が宣言した。あまりにも突然のことであった故、ツッコミを忘れてしまった。

「……いやいや、何を言ってるんですか。用意周到に黄色いリボンでポニーテールに

しているのは流石ですけど、先輩は天公将軍じゃあないでしょう」

「誰もそんなこと言ってないじゃない。気持ちの問題よ、気持ちの。要するに、

私たちが新たな歴史を刻むのよって言ってるの!」

「……すいません。やっぱり意味が全然わかりません。僕に理解力がないとか

いうわけでは決してないとだけ言わせてもらいますけど」

 突飛の無いことを言い出すのは毎度お馴染みちり紙交換の如くではあるが、

ここまで把握できないのも久々だ。

「脳味噌の足りない玲のために、今回だけ特別サービスで無償の説明をしてあげ

ようじゃないの。――今、この世界は群雄割拠の時代なのよ! 高々と聳え立つ

牙城を崩さんと躍起になっているわけ!」

「そういえば政権交代もしましたね。良い方向に変わってくれることを誰もが期待

していたと思いますが――」

「学園を舞台とした作品が繁殖し、軽い音楽とか超能力とか、果ては世界を大いに

盛り上げるための部活とかが台頭してきているわけよ。これが群雄割拠と言わずに

何だって言うのよ!?」

 聞いちゃいないし、人の話。というか、やっぱりそう言った話なんですね。真面目な

内容で受け答えした自分が恥ずかしくなってきますよ、ホント。

「はぁ……。確かにそうですけど、基本的に学園を舞台にした作品での代表的存在と

言えば生徒会じゃないですか。新たな歴史を刻むとか言ってましたけど、それなら

生徒会が一番手っ取り早いですよ。何で生徒会じゃなくて放送部なんですか」

 今更かもしれないけれど、ここは放送室で、そこにいる我々は放送部員である。

本来ならば他に二人いるのだが、今日は私用で席を外している。つまりは、僕と部長の

二人だけだ。

「だからお前は阿呆なのだ! 生徒会が主役の話なんか、もはやこの世界には必要

ないんだよ。よーっく考えてみなさい。昨今の生徒会が主役の作品、果たして生徒会で

ある必要があるの? とりあえず生徒会にしておけば何やっても大丈夫。鉄板だから、

とか思っているに違いないわ! 玲だってそう思うでしょう?」

「そんな各方面を敵に回すような発言は控えた方がいいですよ。まだ一回目なんです

から、この作品」

 先程……というか、最初から摩訶不思議な発言を連発しているのが、我が放送部の

部長、燕貎寺御言(えんげいじ みこと)その人である。頭脳明晰、運動神経抜群、街で

見かけたら思わず振り向いてしまいそうな美貌とプロポーションと、天は二物を与えない

どころかいくつも福袋に詰め込んだかのような完璧超人っぷり。――但し、それらを

全て凌駕するほどの奇人変人っぷりから目を背ければ、の話だが!

 ちなみに、玲と呼ばれたのが僕こと、安部玲司である。今年入学したばかりの一年生

だが、御言先輩とは幼馴染みであり、小学校の頃から何かと引き摺りまわされている。

友人曰く、「幼馴染みという名の手錠を生まれつきかけられていた男」とのこと。

「大体、放送部を主役にした作品だってあるでしょうに。ちゃんとリサーチしたんですか」

「…………あたりまえじゃん」

「ちょっ! 今の間はなんですか!」

「あろうがなかろうが、そんなのは大した問題じゃないのよ。普通の生徒が真面目に

放送部としての活動に勤しんでいる作品なんてあるはずがないんだから。ていうか、

そんな内容で盛り上がるはずがないわ」

 随分と早く自分から始めた話を否定したなぁ……。それに、先輩が既に普通の生徒と

いう枠組みに収まっているとは思えないし、真面目に活動もしてないしな。

「そこまでわかっているなら何で放送部に……」

「不可能とされていることを成し遂げてこそ伝説になるのよ。生徒会が学校の改革を

したところで、私からすればそれがお前等の仕事だろって感じだわ。逆に生徒会らしい

活動をしていない生徒会なんて、存在価値すらないわね。――つまり、伝説を達成

した時の話題性と、ぐだぐだな場面を展開しても違和感がなさそうな部活として、私は

この放送部を選んだのよ」

 言いたい放題だ……。許されるのか、これ? 文句の投書とかでいっぱいになったら

どうすればいいんだろう。

「私に任せておきなさい。三クール目まで続いたら、サブタイトルにそして伝説へ……

って付くようになるから」

「打ち切りにならなければの話でしょう。一作目で終わっておけば良かったのにって

言われなければいいですけどね。――っと、先輩。そろそろ下校時刻のアナウンスを

しないと」

「ん? 時間が経つのが早くて困るわね。会議が終わらないじゃない」

 会議なんかやった記憶がないですが。先輩の中じゃ、今日の駄弁りも会議の内らしい。

 機材の前に座り、全校放送のスイッチを入れる。これだけのことで、少なくとも学校に

いる人々には声を届けることができるのだ。そう思うと、放送部が活躍するというのも

強ち夢物語ではないのかもしれない。

『下校の時刻になりました。校内に残っている生徒は速やかに下校してください。つぅか、

お前らが帰んないと私が帰れない。とっとと帰って、ママのおっぱいでも飲んで寝ろ。

以上だ』

「無理! 絶対無理! 確実に夢物語で終わる!」