「な、なんですか。急に……」
身構える私。そんな態度に那由多さんは不機嫌そうに呟いた。
「なにってそのまんまだよ」
それだけ言われて、言葉の意味を考える。
(そのまんま……。よろしくって……つまりはその、そういうことだよね?)
まさか那由多さんからこんなこと言われるなんて思いもしなかった。
「一応、弟だからね。貴一君もいい歳だからそろそろ身を固めて欲しいし」
そんな風に付け足して言われる。
さっきまでへたれだなんだと貴一さんのこと悪く言ってたのに。
「仲良いんですね……」
思わずそう呟いてしまう。
仲が悪そうに見えて意外と仲良しなのかな……、それとも世の中の兄弟ってみんなそういうものなのかな。
「別に、仲は良くも悪くもないよ。
……ただ、貴一君は長男だし、一番年上だから俺の世話焼いてくれるだけだよ」
少しむすっとしながら那由多さんがそう言う。照れ隠しってバレバレな表情で、こちらの方が照れてしまう。
つまり、本当は超仲良しなわけだ。
照れた顔が幼く見えて可愛くて思わず笑ってしまう。
「……ああ、でも。弟って言っても、俺と貴一君は本当の兄弟じゃないけど」
「……え」
「聞いてない?俺は古川家の養子だよ」
那由多さんがさらりとそんなことを言った。自分は養子だと。
どくんと、心臓が変な風に音を立てた。
手の指先がさっと冷たくなって、思わず八太郎から手を離した。
「なに?まさか引いてる?
そんな深刻にならないでよ、君と貴一君とのことには関係ないことだから」
「違います……けど」
顔を俯ける私に、那由多さんが困ったように言う。私は呆然としたまま首を降る。
引いてるとかじゃない。
けど、心臓が変にどきどきして落ち着かない。怖いような、不安なような、変な気持ちになる。
「……那由多さんは、」
もしかして……
そう尋ね掛けたその時。
「こら、那由多」
貴一さんの声が私の言葉を遮った。
「お前、一人で降りてるじゃないか」
はしごを取って戻ってきた貴一さんは、地面に降りてた那由多さんを見て少し怒った顔してた。
「……あと。なに奈々ちゃんにちょっかい出してるわけ」
「ヒミツ」
しししっと、貴一さんに向かって悪戯く笑い那由多さんが颯爽と去って行った。
「奈々ちゃん大丈夫?那由多になにか言われたりした?」
「ううん。平気だけど……。
けど、那由多さんに聞いちゃった……その、養子だってこと」
精一杯そう伝えると、貴一さんは困ったように笑って私の頭をくしゃりと撫でた。
「変なこと聞かせちゃってごめんね」
「ううん、それは全然……」
平気だけど、平気じゃない。
変などきどきが鳴り止まない。