「森川さんも、どうも有難うございました。あとはうちの者で見てますので、どうぞお休みになってくださいな」


「いえ、当然の事をしたまでですのでお気になさらず。では、また何かありましたら声を掛けてください」


「ええ、お世話様」

藤子さんと森川先生はそんな会話をして、先生は部屋から出て行った。



「森川さん、素敵な人ね。高坂家のお婿さんにはあれ以上の方はいないわ」

先生が出ていくと、藤子さんがうっとりしながらそう漏らす。

なんだか知らないけど、私が倒れた一件で古川家のなかで森川先生の株がぐんと上がったらしい。
たしかに、保健医でお医者さんの資格もある森川先生は頼りになるだろうけど。



(……はっ!!もしかして、好都合ってこういうこと!?)

先生め、どさくさに紛れて自分の高感度をちゃっかり上げるだなんて。

大人ってやっぱり狡い。



そんなことを考えていると、バタバタと廊下を駆ける足音が聞こえた。


「奈々子ちゃん起きたんだってっ!?」

そう言ってばんと襖を勢い良く開けたのは、和美ちゃんだった。双子の桜ちゃんと橘くんも引き連れて。



「お姉ちゃんだいじょうぶ?」

「だいじょうぶ?」

おずおずと顔を出す可愛い双子に「大丈夫だよ」とにっこり笑って返すと、ふたりは嬉しそうに駆け寄ってきた。



「心配したんだよー」

そう言って和美ちゃんも駆け寄ってきて声を掛けてくれる。


「ありがとう、心配掛けてごめんね」

「今日寒かったもんね、雪積もってたし……、今日は暖かくしてゆっくり休んでね。良くなるまでうちにいてね」

「うん、お世話になります」

そう話すと和美ちゃんもほっとした様子で、すぐにいつもの可愛い笑顔を見せてくれた。



「あのね、あのね、奈々子ちゃんが倒れた時さー、大変だったんだよ?

貴一おじさんたら、顔真っ青にして、救急車呼べとか言って取り乱すし、部屋に運んできてもずっと側から離れないしで」

にまにまと悪戯な笑みを浮かべて和美ちゃんがそんな話をする。
私はそんな貴一さんの姿が想像ができなくて、ぽかん顏。


だってだって、貴一さんが取り乱した?
私のために?


信じられなくて。
嬉しくて。

どんな顔していいかわからない。

その時、


「和美、それ以上余計なこと言わないの」

そう言って廊下から貴一さんが顔を出した。