ベットの上で向かい合って座り、濡れた貴一さんの髪をタオルでわしわしと拭いていく。
貴一さんはされるがままで頭を私に預けていて、それでなぜだかとっても楽しそう。
対する私はとっても不機嫌顏。
さっきの、『松嶋やよい』のこととか、風邪引くこともお構い無しなバカ貴一さんに対する不満が半分。
幻滅する点がいっぱいあるのにそれでもまだこのおじさんが好きなままの私自身に怒っているのが半分。
……とにかく私は、貴一さんにも自分にも怒っているのだ。
「奈々ちゃん、髪拭くの上手だね」
「そう、ですか」
貴一さんがあまりにも幸せそうに笑うから、私もつられて笑いそうになる。
結局いつものパターン。
この狡い大人に、お子様の私は絆されてしまうんだ……。
(あぁもう、貴一さんて本当に狡い!)
そんなことを思っていると、
遠くの方で、ゴーンと鈍いような甲高いような不思議な音が聞えてきた。
「除夜の鐘だ、もうすぐ年が明けるね」
「うん……」
除夜の鐘。
もうすぐ、今年が終わる。
ゴーンと鐘が鳴る。
「明日は、近くの神社に初詣に行こうね」
「うん」
私は貴一さんの話に頷きながら鐘の音に耳をすませた。髪を拭く手は止めないまま。
時計の針が12時を指した。
「明けましておめでとう」
「……おめでとうございます」
貴一さんが楽しそうにクスクスと笑っている。
私もつられて笑い返す。
貴一さんの髪拭きながら年越ししちゃったのがなんだか可笑しいから。
「今年もよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そう言って手を止めると、貴一さんが私の手を掴んで抱き寄せる。
それと同時に、
ちゅっと触れるだけのキスがひとつ。
これだけで、それまでのことなんて忘れるくらいに幸せな気持ちになってしまう。
「貴一さん」
「ん?」
「好き」
「知ってる」
そう言ってもう一度キスされる。
キスされたから、「貴一さんは好き?」と聞き返すことも出来ない。
(これだから、貴一さんは狡い大人だ)
そんなことを思いながら、私は今年二度目のキスを受け入れる。
ゴーン、ゴーンと、
除夜の鐘が遠くで聞こえた。
-1231 New Year's Eve-