「和美、余計なこと言わないの」

貴一さんがグラスを傾けながらその子に言う。どうやらその子の名前は和美ちゃんらしい。

その子、和美ちゃんと貴一さんはそれからなにやら仲良く言い合っていたようたわけど、私はそのノリについていけなくてたじたじ。


(うーっ、貴一さんが若い女の子と話すの初めて見た。ちょっと妬けちゃうかも……)

そんな恥ずかしいことを考えてしまう。

そんな気持ちを誤魔化すように、手に持っていたグラスに口をつける。

すると、ふと。
烏龍茶をちびちびと飲んでいると、向かい側から微かな視線。

向かいに座る男の人と目があった。
貴一さんと少し似た容姿の若い男の人だった。



「おかわり、いる?」

お兄さんは淡々とした声で烏龍茶の入ったピッチャーを私に差し出す。言われて反射的に私も自分のグラスを前に差し出した。

とくとくと烏龍茶をついでもらう。



「ありがとうございます」

「いいえ」


お礼を言うと、静かに返される。
見れば見るほど貴一さんによく似てる。親戚の人だから似てても普通かもだけど。若い頃の貴一さんってこんな感じなのかな。

そう思っているとお兄さんが静かに口を開いた。


「ナユタ」

「へ?」

「古川 那由多。俺の名前」

よろしく。と、小さく頭を下げられる。
つられて私も同じ様に頭を下げる。



「えっと、ナユタさんってどんな字を書くんですか?」


ナユタという珍しい名前に思わずそう尋ねてしまう。するとお兄さんは無言でこいこいと私を手招きした。

招かれるまま席を移動してお兄さんの隣に座ると、お兄さんはスマホのメモ画面に書いて漢字を見せてくれた。

那由多と書いてそのままナユタと読むらしい。なんだか可愛い名前。



「なんか食べる?」

そう言って那由多さんが新しいお箸を渡してくれる。ついでに小皿に盛られたおかずも一緒にテーブルの上に置いてくれた。


「あっ、はい!ありがとうございます」

緊張しながらお箸をつける。
那由多さんは貴一さんに似てるけど、とってもクールだ。いや、クールというよりかは、冷めてるって言った方が良さそうだ。



「貴一君と付き合って長いの?」

「えっ!? えっと、あー、いやぁ、それほどでも……?」

「なんで疑問系?」


しどろもどろな私の言葉にくくっと那由多さんが小さく笑う。

笑った顔が可愛いくてきゅんとなる。
笑顔は貴一さんと似てるから。


そんなことを思っていると、



「浮気厳禁」

「ひゃっ!?」

突然降ってきた声に、ひょいっと体を抱き上げられた。顔を上げれば貴一さんだった。


「やっ、ちょっ、貴一さんっ!?」


那由多さんとの間に割り込むようにして入ってきた貴一さんにお姫さま抱っこみたいな体制で抱き上げられる。すると、そんな私たちに周りからひやかしのような歓声がどっと沸く。

その声と、この体制が恥ずかしいやらでかぁっと私も顔が赤くなる。


「きっ、貴一さんっ!!」

「あんまり他のやつとイチャイチャしないでよね」


そう言って貴一さんはいつもの怪しい笑みを私に向けた。