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12月31日。
大晦日には雪が降った。


貴一さんと朝早くに駅で待ち合わせして急行電車の乗り場へ。


これから貴一さんの実家へ行くんだ。
なんだかまだ実感が湧かない。


「大荷物抱えて電車に乗って、まるで駆け落ちみたいだね」

「なんなら本当に駆け落ちしちゃう?」



貴一さんが冗談めかしてへらっと笑う。

(貴一さんとならいいよ)

心なかでそう呟く。
決して口には出せない言葉。そんな気持ちを隠すように一緒になって私も笑う。

出発前に買った暖かいミルクティのペットボトルはもうほとんどぬるくなってた。

微かな温度に縋る様に小さなペットボトルをぎゅっと握りしめる。


「寒い?」

「ううん。けど手袋忘れちゃったから」




貴一さんの実家は北の田舎にあって、雪がとてもよく降る所だとか。


だから、しっかり暖かい格好をしてくるようにと何度も言われていた。

言われた通り、一番暖かいアウターにブーツ、それからマフラーを用意してきたわけだけど、手袋だけはうっかり忘れてきてしまった。

手袋が無いから手先だけ少し冷たくて、寂しい。



「だから。手、繋いでもいいですか」

「いいよ」


すっと差し出される貴一さんの右手をぎゅっと握って手を繋ぐ。


「奈々ちゃん、積極的だね」

「ちがっ!!寒いからっ!!」


からかわれて恥ずかしくなって反射的に手を離そうとする。けど、貴一さんの手は私を離してはくれなかった。


そうして電車が来るまでの間。
人混みに紛れて貴一さんとずっと手を繋いでいた。



「貴一さんの手、あったかいね」

「奈々ちゃんが冷え性なんだよ」