言葉の抵抗も虚しく、貴一さんにひょいっと担ぎ上げられてしまう。そのまま暗がりの隣の部屋へ。
「ちょっ、きーちさんっ!」
ぽふんと布団の上に降ろされる。
そのすぐ後に、ちゅっちゅっと鼻の頭やおデコにキスがひとつふたつ落とされる。
やっと離れたかと思えば貴一さんは片手で自分のネクタイを緩めていた。
シュッと、布が擦れる音とか、
その色っぽい仕草に、
心臓がどきどきと高鳴った。
まさか、こんなタイミングで。
しかも、こんなシチュエーションで。
ロマンチックな要素なんてひとつも無くて、それこそおっさんの妄想官能小説みたいな状況なのに。
それなのに、
貴一さん相手だから、私は怖いくらいに感じてしまっていて……。
「きーちさん、そのしぐさエロい」
「奈々ちゃんの今の顔こそエロいよ。誘ってるの?」
尋ねながら唇を塞がれる。
言い返すことは出来なかった。
「……んっ、ふぁっ」
侵入してくる貴一さんの舌に、ゾクゾクと身体が震える。頭が真っ白になっていっちゃいそうになる。
呼吸もままならない。
それなのなに、気持ち良くて。やみつきになりそう……。
「あっ、きーちさっ」
唇が離れる。
名残惜しくて思わず彼のシャツを掴む。
「奈々ちゃん、やーらしぃ」
私の仕草を貴一さんがからかうようにクスクスと笑う。私にはそれに言い返せるほどの余裕はない。
(いつか逮捕されるよ、このエロおやじっ!)
心のなかでそう唱えるだけで精一杯。
もう一度唇が触れる。
今度はさっきよりも優しく。長く。深く。
(「押し倒されちゃいなさい」)
キスの最中、ママの言葉をなぜだか思い出していた。
今がその押し倒され時ってこと……?
「……んっ、あっ、きーちさんっ」
「ん?」
「押し倒しても、いいよ」
そう告げると、貴一さんは少し困った風に笑った。
「……どこでそんな台詞覚えたの?やっぱり悪い子だね。奈々ちゃんは」
そう言った貴一さんの顔は心なしか赤いように思えた。
ムーディな行灯の灯りのせいなのかもしれない。
「後悔しないでよ」
貴一さんが私に言う。
そうしてそのまま、
二人もつれ合うようにして布団に雪崩込んだ。
-December-