「忘れ物、無い?」

「ないない!」

「おじさんに、いってきますのチューは?」

「そういうのいいから。ていうか本当にいつか捕まるよ、貴一さん」


出発の日。
貴一さんが空港まで送ってくれた。帰りは仕事でたぶん迎えには来れないだろうからって。

けど、貴一さんはこんな時でもエロおやじ全開で私を困らせる。今だって公衆の面前でチューをねだってきたりするわけで……。




けれど……


「はいこれ」

「なに?」

「餞別」


言いながら、かちゃりと小さく音を鳴らしてあるものを手渡された。

私は手のひらを開いてそれ見る。
渡されたそれは、銀色のピカピカの鍵だった。それも、ガラスと陶器の玉のキーホルダーが括り付けられててとても綺麗だった。


「これって……」

「僕の部屋の鍵」

「……良いの?」


恐る恐る尋ね返すと、ぽんっと頭を撫でられた。気合い入れてセットしてきた髪がくしゃっと揺れる。



「もちろん。迎えは来れないと思うから、代わりにね。僕のとこまでちゃんと帰ってきてね」

「うん。ありがとう……」


貴一さんの言葉が嬉しくて。
私はぎゅっと鍵を締めて胸に抱く。


(また、宝物増えちゃった……)


こんなに嬉しくてどうしよう。
今の私、すっごい幸せだ。



「今度はポストに返却したら駄目だよ」

「それは……うん、ごめん。大切にするから」


いつかのことを言い出されて、ちょっと恥ずかしい。でも貴一さんがあの時のこと覚えててくれて嬉しくもある。


(もしかしたら、あの時ポストに鍵が入ってて貴一さんへこんだのかな……)


そんなこと考える。帰ってきたら聞いてみるのも面白いかもしれない……。


搭乗案内のアナウンスが聞こえてきた。
まだ列に並ぶのは早いかもしれないけれど、これ以上一緒にいるとますます離れ難く感じてしまう。


「じゃあね、いってきます」

だから私はそう言って、自分の荷物をぎゅっと持ち直した。


「いってらっしゃい」

向き直ると、貴一さんが掠めるようなキスをした。