「貴一さん、あたし……」
「……どうしたの」
意を決して口を開けば、貴一さんもその真面目な空気を感じ取ってくれて触れるのをやめ私に向き合った。
「あたしね、春休み……」
「うん」
「……えっと、あの……」
「……もしかして、会えない?」
異様な空気を察して貴一さんが問い掛けたその言葉に、私はこくんと小さく頷いて答えた。
(きーちさん……鋭い……)
さすが年の功……?
私より人生経験が長いからか、こういうことに感しては貴一さんは敏感で。大人だ。
「……ごめんなさい」
「謝らないでよ。奈々ちゃんだって予定あるよね」
「じゃなくて……っ、予定あるのは確かにそうなんだけど……」
(言わなきゃ。言わないと……)
心のなかでそう焦る。
焦れば焦るほど、舌がこんがらがって言葉が出てこない。
ぽふん。
ふいに貴一さんが私の頭をぽんと撫でた。
「奈々ちゃん落ち着いて。なに言っても怒らないから」
そう言って優しく微笑む貴一さん。
なんて大人な対応。
私は貴一さんの言葉にすごく安心して、さっきまでの緊張もふっと解けた。
「ありがと……」
「うん」
「あのね、あたしね……」
「うん」
「春休みに那由多さんのとこいくの」
「……は?」
……"怒らないから"なんて、
大人の言葉は信じちゃいけない。
この時、私は身を持ってそう実感した……。
「那由多と、なんだって?」
「ぎゃーっ!!怒らないって言ったじゃんっ!!」
貴一さんがめちゃくちゃ怒った。


