貴一さんに振られたことをママに伝えたら「自分を磨きなさい」と言われた。

いつ貴一さんが私のもとに帰ってきても良い様に。私のもとに帰りたいと思うくらいに。

それは、なんともママらしい励まし方だった。



そんなママの娘だからか……私は、その励ましの言葉に大きく心を動かされたし、決死もした。

絶対に貴一さんに釣り合う女になる。
肩を並べられるくらいの。
隣に立っても恥ずかしくないような……。


……そう決心した時、真っ先に思い出したのは如月の家のことだった。仁さんの仕事のパートナーとして如月の会社を継ぐこと。

セコい手段かもしれないけれど、貴一さんに釣り合う女になる一番の近道はこれしかないって本気で思った。



「仁さんが、まずは学校の成績上げろって。あと英語と中国語を喋れるようにって……」

『それで俺に英語をね……』

「ごめんなさい。那由多さん以外に相談出来る人思いつかなくて……」


こんな相談を出来るのは私の素性を知ってる那由多さんくらいだったから。



「なにも付きっきりで教えて欲しいってわけじゃなくて……コツとか、どうやって英語を覚えたとか教えてもらえないかなって思って……」


そう自分で言ってて、なかなか図々しいお願いだなとは思う。そのせいで語尾は自然と弱くなるし、視線も下を向く。


(もしかしたら呆れられてるんじゃ……)


思って恐る恐る那由多さんの顔色を伺うと、彼は思いの他真面目な顔をしていた。



『コツねぇ……。ちなみに君の学校の成績は?』

「えーっと……もともと英語の成績はそこそこ良いですよ。普通の公立校ですけど」

『ふーん……海外経験は?』

「年に1、2回。ママと南の島とかに」

『……そう。それならさ、こっち来なよ』

「こっち?」

『アメリカ。現地の言葉を直接聞いて、直接話すのが一番早いよ』



そう言って那由多さんが意地悪な笑みを浮かべた。私は思いもしなかったその話に唖然となった。

だって、そんな現実味のない案を言われるとは思わなかったから。



(絶対無理だし……)


けれど、そう思う私を、那由多さんは強引に説き伏せた。
住む場所くらいは提供してやるからと、交通費はその如月のボンボン(仁さん)に出させればいいと言って……。


そうして私の思惑とは裏腹に、話はとんとん拍子に進み……その後日にはママにも仁さんにも二つ返事で了解されてしまったのだ。