結局、テストのご褒美は指輪になった。

貴一さんに嵌めてもらった指輪は、私の左手薬指にぴったり収まった。



「あたしも、ずっと付けてるからね」

「それは嬉しいけど……、校則違反になるんじゃないの?」

「えー、みんな付けてるから大丈夫だと思うけど……でも没収されたらヤダなぁ……あ!なら、チェーン通して首から下げとく!それならずっと身に付けてられるし!」



そう話すと、さっそく明日一緒にチェーンを買いにことに決まった。

ついでに貴一さんは新しいスマホも買いたいと言っていて、それも一緒にショップに見に行くことになった。


貴一さんのスマホは水没させて以来ずっと使えなくなっていて、仕事用のケータイを現在は兼用で使っている。




「でもなんで水没させちゃったの?」

「んー……恥ずかしいなぁー」


なんとなく尋ねると、指輪の時と同じリアクションが返ってきた。

(これももしやワケあり?しかも、あたし絡みで……?)

そう思って、貴一さんに「教えて」と強めに言ってみると、貴一さんはさっきより恥ずかしそうに顔を伏せた。



「……えーっと、わざとね。実家の池に落とした」

「……えっ、わざとっ!?」


驚く私を貴一さんはぎゅうっと抱きすくめた。そして一から説明してくれた。

姿を消したあの期間から、バレンタインまでの時のことを……。



「……親父が倒れてね、一時期実家に戻った。幸い、命に関わるようなことはなかったけど、そろそろ跡継ぎの問題が出てきたんだ。

まぁ、僕長男だし、覚悟はそれなりにしてきたんだけど。そしたら、継ぐとなったらちゃんと身を固めてこいってことになって……」


「身を固めるって……」


「結婚。奈々ちゃんとのね」


「えっ!?あ、あたしっ!?」


「正月の時に連れて行ったから。相手が居るならって周りが急かしたんだよ」

「そう、だったんだ……」


まったく思いもしなかった。
そんな話。


「でも奈々ちゃんはまだ未成年で学生だし、僕の家のことに巻き込むわけにはいかなかったから……そもそも本当の婚約者ってわけじゃなかったしね。

あの時は大変だったなぁ……奈々ちゃんとは結婚しないって言ったら一族中から大ブーイング」


本当に大変だったなぁと貴一さんが笑う。
それから私の頭を撫でながら、貴一さんはこう話を続けた。


「親父と母さんだけは唯一俺の気持わかってくれたみたいでね。奈々ちゃんの一生を自分たちの都合で縛ることはできないって。

結局は、結婚はしない。跡は継ぐ。ってことで解決した。スマホを捨てたのはその時だった……」




(あたしの知らない所で、あたしは貴一さんに守られていたんだ……)


貴一さんの話を聞きながら、そんなことを私は思った。バレンタインの時のさよならの意味にはまさかそんな気持が込められいたなんて思いもしなかった。