「きーちさん、指輪はずして」

「……だめ」


私が貴一さんの指輪に触れようとすると、貴一さんはそれを拒んだ。

それが貴一さんの答え。



愛人にはなれないって。

指輪は外せないって。

私より大事だって。



だったら……



「だったら、なんで……っ、なんであの時あたしにキスしたのっ!! 傘なんて捨ててくれればよかったのにっ」



どうしてキスしたの。

どうして笑いかけたの。

どうして家に入れたの。

どうして……



そう言って私は貴一さんの胸をいっぱいいっぱい叩いた。私がいくら叩いても貴一さんはびくともしなかったけど。



「……ごめんね、奈々ちゃん」

「奈々って呼ばないでよっ!!きーちさんなんて大っ嫌いっ、大っ嫌いだよっ!!」



嘘。

本当は、貴一さんに「奈々ちゃん」って呼ばれるの大好き。

貴一さんのこと、大好き。