「ねぇ、千代ちゃん。久しぶりに折り紙でもしましょうよ」

「えっ、……えぇ」


お婆ちゃんは私を「千代ちゃん」と呼んだ。一瞬戸惑いながらも頷くと、お婆ちゃんは引き出しの奥から綺麗な千代紙を取り出した。


「綺麗でしょう?千代ちゃんと同じ名前よね」

「うん……綺麗だね……」


私が頷くと、お婆ちゃんはまたにこにこと嬉しそうに笑った。

そのまま私は「千代ちゃん」のふりをして、お婆ちゃんと折り紙をした。


お婆ちゃんは、鶴やカエルやお人形さんの形をしたのをいっぱい作った。
私は折り紙とか全然わからなくて、学校でメモの手紙を折る時によくやってるハート型を作ってみた。


「……あら、これはなんの形かしら?」

「ハート型、です……」

「可愛らしいわねぇ」

「あ、ありがとう……、あのっ、おば……じゃなかった、シキさんに差し上げます」

「あら、ありがとう。千代ちゃん」



ふふっと柔らかく笑うお婆ちゃん。
私はなんだか体の奥がかぁっと熱くなるような不思議な気持ちがした。

着物の帯で締め付けられたお腹のなかが、むずむずくすぐったいみたいな。




「……僕も、一緒にいいかな」

そう言って、さっきまで黙って隣に座っていた貴一さんが千代紙に手を伸ばした。



「紋次郎さんたら、またやきもち焼いて」

「……やきもち?」

「紋次郎さんたらいつもこうよね。私と千代ちゃんが仲良くしていると、いつも割って入って」


お婆ちゃんは愉快そうにそう言って貴一さんを見た。お婆ちゃんの話に、貴一さんは少しだけ気恥ずかしそうな顔をして黙々と千代紙を折り始めた。


(紋次郎さんと千代ちゃんってラブラブだったんだ……)

そう考えると微笑ましく思えて、私もお婆ちゃんと一緒になって笑った。



紋次郎さんと千代ちゃんのふりをした私と貴一さん、そしてシキお婆ちゃん。

なんだか奇妙な組み合わせ。



時代をタイムスリップしたみたいな。

なんだかとっても不思議なこの空間が、この時はとても心地良く思えた……。