「そろそろ帰ろうか」

スクラップノートを閉じて那由多さんが言った。片手にはスマホを握って、なにかを気にしてる様子だった。



「まだ、雨降ってますよ」


窓の外を見れば、雨はまだ降り止んでいない。

私がそう言うと、那由多さんはスマホをかざして悪戯っぽく笑った。


「迎え呼んだから大丈夫」

「え……?」


迎えを呼んだ?
その言葉に、私は那由多さんのスマホに反射的に目を向けていた。

光る画面は電話を知らせていた。

その着信元は……

『kiichi』



「……キイ、チ……って、貴一さんっ!?」

「そ。静かにしててね」


声を上げる私に那由多さんはさらりとそう言ってた電話に出た。


「もしもし、貴一君?うん、そう、悪いけど迎えに来てよ。そうそう、母さんのアトリエに居るから」


あわわっと声ならない声で焦る私を余所に那由多さんは平然と貴一さんと電話で話している。


「5分で来るって」

「うそっ」



信じられない。

私はもう貴一さんとは会っちゃいけないのに……。



「あっ、あたし、先帰りますっ!」

「は?この雨の中帰ったら風邪引くよ」

「へーきです!だからこの手を離して下さい!!」


逃げ出そうとするわたしの腕を那由多さんががっちり掴む。
それはもう実に良い笑顔で。


「もうすぐ貴一君が来るんだから待ちなよ」

「やだやだっ!離して下さい!!」


なんてすったもんだしているうちに。

外から車のクラクションの音が聞こえた。それとほぼ同時に鳴り出す那由多さんのスマホ。

絶体絶命なわけで……。



「ほら、観念しなよ」

「うぅ……っ」


そのままずるずる引きずられる形で外に連れ出された。