「奈々子ちゃん、帰ろう」

「澪……」


澪がくいっと私の腕を掴んだ。
それから、澪は陸の方に顔を向けて「今日は奈々子ちゃんと帰るね」と唇を尖らせながらそう言った。

なんだか怒ってるみたいなその表情に私はびっくりした。だってあのおっとり優しい澪がこんな顔するなんて。

しかも彼氏の陸に……。





「あんな言い方して良かったの?」

「良いの。陸くんが意地悪言うのが悪いんだもん」


結局そのまま陸を置いて教室を出てきてしまったわけで。


澪はなぜか陸に怒ってるみたい。
しかもその原因は私っぽいから、なんだか非常に気まずくて仕方ない。


「意地悪って?」

「……陸くん、奈々子ちゃんが古川さんのこと好きなの知ってるの」

「え……っ!?」


思い掛けない言葉にびっくりして、自然と足が止まる。澪もゆっくりと足を止めた。


「それなのに……、失恋したって言う奈々子ちゃんにわざと会わせるみたいなこと言うんだもん」

澪がそう静かに話す。
確かに意地悪と言えば意地悪かもだけど……。




「怒らないであげて?陸は悪くないし……あたしが、会いに行く度胸がないってだけだからさ」


ぎゅっと澪の手を握ってそう答える。
私のせいで澪と陸の関係が悪くなるなんて嫌だった。


「奈々子ちゃん……」

「ね?お願い、澪」


そうお願いすると、澪はこくんと頷いた。頷いてくれたことにほっとして、私はそのまま澪の手を引いて教室まで引き返した。





「りーく!澪がやっぱり陸と帰りたいってー!!」

「やっ!奈々子ちゃっ!!」


教室に入ってすぐ元気良く声を上げると、教室にまだ残っていた数人のクラスメイトが一斉にこっちに注目した。
それが恥ずかしかったのか、澪が止めるように私に向かって声を上げた。初心な反応が可愛い。




「澪……っ!」

陸がすぐにこちらに駆け寄ってきた。
そして、陸は私の方を向いて「ごめんな」と謝った。


その言葉に、やっぱりわざとあんなこと言ったんだと悟る。

陸なら貴一さんが結婚することももちろ知っているはず。
今更会ったって、貴一さんの迷惑になるだけなのも、賢い陸のことだから十分理解できると思うけど……。



陸の真意は解らないまま。

だけど、澪と陸が仲直りしたので良しとすることにした。