「なーなちゃーん。
ねぇ、ごめんって、機嫌直して? もっとこっちおいでよ?」
あまりにも貴一さんが笑うので、私は悔しいやら恥ずかしいやらですっかりご機嫌斜め。口も自然とへの字に曲がる。
不貞腐れてソファの隅っこに座る私に貴一さんは困ったようにへらっと笑う。ぽふぽふとソファを叩いてこっちへおいでと言っている。
貴一さんちのソファは、大きな貴一さんが横になってもたぶん余裕があるくらいの大きさなので、隅っこに座るととても距離が空く。
「ね?ラテアート上手くいったんだ」
見て見て。こっちにおいで。
と、貴一さんが甘えた声を出す。
「……」
私はのそりと体を貴一さんの方へと移動する。口はへの字に曲げたまま。
(別に、貴一さんの甘えた声に絆されわけじゃないから!ラテアートが気になっただけだもん)
なんて、
自分自身にも意地を張りながら……。
「あ、ねこちゃん」
テーブルの上のカップを覗き込むと、ふわんとした泡に浮かぶ子猫の絵。
可愛いくて、不機嫌だったことも忘れて思わず頬がほころんでしまう……。
「ね?可愛く出来たでしょ?」
「うん。かわいいね」
にこりと笑う貴一さんに、私もついつい笑いかけてしまう。しまった、また完璧に貴一さんのペースに乗せられてしまった。
「ささ、どうぞ召し上がれ。奈々ちゃん好みにうんと甘くしといたから」
「それは嬉しいけど、なんか口付けちゃうの勿体無いな。こんなにかわいいのに」
「じゃ、おじさんとチューでもする?」
「結構でっす。あ、崩しちゃう前に写メ撮ってもいーですか?」
チュー発言する貴一さんに内心ではドキドキ。それに気付かれないようにスマホを取り出してラテアートをパシャパシャと撮影。
そうこうしていると、するっと貴一さんが私の腰に手を回す。びくりと思わず肩が震えて写真がブレた。
「ちょ、ぶれたじゃないですかー」
「奈々ちゃんが構ってくれないからだよ」
言いながらぐいっと腰を抱き寄せられて、
ちゅっと、
こめかみにチューされる。
「〜〜〜っ、このっエロおやじ」
「はいはい。そのエロおやじが好きなんだもんね?奈々ちゃんは」
「ーーっ!!」
にこりと言い放たれ、私は何も言い返せない。言い返すもなにも本当のことだけど……。
(もう、本当にこのおじさんには敵わない)