本能的に怖いと思った。

聞いちゃいけないって。
けど、逃げられなかった。




「もう、終わりにしようと思って」


なんてことない口調で貴一さんはそう言った。

終わりにしよう、と。


心臓が止まるかと思った。

喉の奥が震えて、涙が出そうになって。



「終わりって……?」


せめてもの悪あがき。
意味がわかってないお子様のふりをしてそう笑って聞き返す。


「意味、わかってるでしょ?もう会うのやめよう」

「……っ、なんでっ」


淡々と言い返されて、貼り付けた笑顔が崩れ落ちる。目の奥がじわりと熱くなって、涙が浮かんできてしまうのが止められない。


どうして。なんで。


(だって、さっきまで金平糖の……とても幸せな話をしていたのに。それなのに、どうして……)


無意識に、手の中の金平糖の瓶をぎゅうっと握りしめていた。

からんと、瓶の中で金平糖が揺れる。





「結婚するんだ」


平然とそう吐き出された言葉は残酷で。
私は耳を塞ぎたくなった。


「急な話だけど、本格的に家を継ぐことになってね。僕もそろそろちゃんと身を固めようと思ってね」

そういつもの調子で話す貴一さん。
誰と?私じゃ駄目なの?とは怖くて聞けなかった。

私は今どんな顔してるだろ。
今にも泣きそうな、きっと醜い顔してると思う。

そんな顔、貴一さんに見られたくなかった。けど、顔は伏せられなかった。
涙が落ちるから。


「……そっか、そうだよね。貴一さん……もう本当に、いい歳だもんね」

「あはは、奈々ちゃんは相変わらず厳しいね」


貴一さんはいつもと同じように笑った。


「だから、この関係も終わりにしないとね」

いいよね?と、笑いながら言う貴一さんは本当に狡くて酷い大人で。



「わかった。もう会わない」


すんなりと受け入れたのは、私のせめてもの意地で。

泣いて、泣いて、縋り付くなんてみっともない真似は、どうしてもできなかった。


困らせちゃいけない。最初からわかってたことだから。

聞き分けのいい子のまま、貴一さんとさよならしたかったから。