またもや腰に手を回されてエスコートされる。
お茶でも飲もうよと言われ、連れていかれた先は屋敷の離れにある和式の建物。


「茶室ってやつですか?」

「そう。ご馳走するよ」


小さな建物は、いわゆる茶道の茶室というやつだった。
仁さんがお茶を点ててくれるそうだけど、作法とかさっぱりわからないから緊張しちゃう。

それが伝わってしまったのか、「緊張しないでいいよ」と爽やかに言われた。


部屋に入り、促されるままに畳に正座して座ると、仁さんが慣れた動作でお茶を点ててくれた。


抹茶を初めて飲んだ。
もっとこう苦いかと思ってたけど。



「美味しい!……あっ!じゃなくて、結構なオテマエデ」


思わずそのまま感想を口にしてしまい、慌てて言い直す。言葉遣いは完璧にイメージだけど。


「あははっ、有難う」

仁さんは私の口調がツボだったのか、楽しそうに声を上げて笑った。


「やっぱり奈々子ちゃんは面白いね。それにとってもいい子だ」

「……それはどーも」


仁さんが急に褒めるものだから、気恥ずかしくなって、つんと返事をする。

そんな私の態度に仁さんは困ったように
すっと綺麗な髪をかき上げる。その仕草が実に様になっていて、不覚ながらもかっこいいと思ってしまった。


(いやいやいやっ!あたしがかっこいいって思うのは貴一さんだけでいいもんっ!)

そう必死に自分に言い聞かせる。
そうしないと、なんだか仁さんのペースにはまってしまいそうだったから。



「ねぇ、奈々子ちゃん」


咳払いを一つして、仁さんが私を呼ぶ。急に向けられた真剣な瞳にどきりとした。


「なんですか」

緊張を気付かれない様に、さっきみたいにぶっきらぼうに聞き返す。


目と目が合うと、にこりと微笑まれた。



「僕のものにならない?」


微笑まれながら。
仁さんがそんなことを口にした。



この人、今なんて言った?

僕のものにならないかって……



その言葉に、思考が一瞬止まって、なにも考えられなかった……。




……数秒後。

かこーん と、遠くで鹿おどしの音が聴こえて、その音にハッと意識を取り戻す。



「な、なに言ってるんです?」

「そのまんまだけど?」


再びにっこり笑顔。
爽やかな笑みなのに、なぜか心臓に悪い。