「そうだ!上手くできたら、陸にもあげるよ」
「まじ?」
「うん!ねぇ、陸はこのなかだとどれが食べたい?」
そう言ってさりげなく陸の希望をリサーチ。
真面目で口下手な澪は多分こういった嘘も苦手だろうから、私が代わりに頑張らないと。
「んー?これとか?」
言って陸が見せたページは、ザッハトルテ。これって確か結構難しいやつ。
「はぁ?無理無理、こんなの難易度高いっての」
「そうなの?姉ちゃんがこれよく作るから簡単かと思ってたけど」
私の言葉に、陸が不思議そうな顔してそう漏らした。陸のお姉さんすごい。
「陸のお姉さんは出来ても、あたしらには無理だよ!このシスコンっ!」
「シスコン言うなし……。
……別に、これじゃなくてもいいよ。澪が作るならなんでも食べたいし」
さらっと陸が惚気る。
抱き締められたままの澪は、ぼんっと音が出そうなほど一気に顔を赤くさせた。
「はいはい、ごちそーさま!もう、澪が固まっちゃってるじゃん!!陸はあっちいっててよ」
しっしっと澪から陸を追い払うと、陸の腕から解放された澪がぺたんと机に突っ伏した。どうやら、刺激が強すぎたみたい。
「……ザッハトルテ、練習しないとね」
突っ伏したままの澪にそっと囁きかける。澪も同じことを思っていたのか、顔を上げて小さく頷いた。
バレンタインは、
ザッハトルテで決まりだ。
(……って、あたしのバレンタインがまだ決まってないじゃんっ!?)
お昼休みの後の授業中。私はハッとなる。
澪のバレンタインの予定を決めるのに夢中で、自分のことをすっかり忘れた。
(貴一さんに渡すかどうかってとこから決めなきゃだし……、手作りかどうかも……)
そんなことを考えて、授業もそっちのけで頭を抱える。


