「しかもね、ただのフルカワの食器じゃないのさ。全て3代目の……古川紋次郎の作品だからね」
「3代目?」
(じぇい そーる?)
なんて私の心の呟きはさておき、3代目って言ったら貴一さんのおじいさん……那由多さんのお父さんことだ。
「古川紋次郎はね、歴代の職人のなかでも陶芸の才が一番あったとされている人物なんだ」
「へぇ……」
那由多さんのお父さんって凄い人だったんだ。確かに那由多さんも天才肌っぽいもんなぁと、なんとなく納得する。
「ただその才能故なのか、消費家で女癖も悪くて、経営者としては最悪だったらしいよ。
あとハンバーガーが好物だったらしいよ」
「へ、へぇ……」
ハンバーガーのくだりはわりとどうでもいい。ていうか仁さんなんでそんなことまで知ってるんだろう……。
「仁さんってフルカワ好きなの?」
「そうだね、好きかな。それにだって、良い器だと食事も一層美味しくなるだろう?」
「そうですね」
仁さんの言葉に、私もなんだか嬉しくなって頷いた。
「奈々子ちゃんもフルカワが好きなのかい?」
「はい」
嬉しそうな反応を見せる私に仁さんが意外そうに尋ねてきて、私はこくりと頷いた。
正直まだ器の違いとかも全然わからないから、仁さんみたいに自信満々に好きと言うのは少しだけ恥ずかしい。
「最近興味持ったばかりですけど」と付け足して言うと、「それは良いことだね」と仁さんが笑う。
「今度うちに遊びにおいでよ。僕のコレクション見せてあげるよ」
と、さらに嬉々としてそんな風に誘われてしまい、気まずくて視線を軽くそらす。
だって、仁さんの家って、如月家の本家のお屋敷なんだもん。そんなところに私みたいなのがほいほい行けるわけもない。
(あー、でもフルカワの食器のコレクションとか気になるしなぁー)
ダメだとわかってるけど、きっぱり断れない。
なんていうか、フグは食べたいけど毒は怖いみたいな心境。フグ食べる機会なんて今まで経験したことないけど……。
「そうですね、機会があったらぜひー」
伝家の宝刀・社交辞令。
やっぱり毒は怖かった。
如月家と関わらない人生を歩んでいきたいから、残念だけど断ることにした。
(こんなあからさまな社交辞令なら、大人な仁さんもきっと空気を読んで引き下がってくれるはず……)
狡いけど、心のなかでそう思った。
そう思った私が馬鹿だったと、その数秒後思い知らされることになるとも知らずに……。
「じゃ、次の休みにおいでよ!迎えに島崎を寄越すからね。約束だよ?」
「……へっ!?」
ニコニコ笑顔の仁さんに、私は顔が引きつった。
思わず二度見すると、仁さんはあんな社交辞令を真に受けて実に嬉しそうに笑っていた。
「わーい、楽しみだナァ」
無邪気な笑顔に今更嫌とも言えなくて。
私は笑顔を作ってそう返すしか出来なかった……。


