刹那。
目が合った彼はずんずんと私の方へ歩いてくる。
そして私の前で止まる。
私がいる場所は、さっき彼がいた場所よりも明るい。
顔がしっかりと見える。
「お前、2年2組の前田想架(まえだそうか)か?」
彼が口を開く。
確実にさっきおっさんに潰してあげようか?と言った人だ。
予感が、確信に変わる。
「はい」
「……」
一瞬顔を歪ませた彼が、まさかあの人だなんてにわかに信じられない。
「あなたは……仮村貴雪(かりむらたかゆき)くんですよね?」
確信が事実であるために確認をとる。
「……」
「……」
数秒の間。
彼が重い口を開く。
「……ああ」
やっぱり。
今目の前にいる人は仮村貴雪だ。
仮村貴雪は私と同じ学校のちょっとした、いや、かなりの有名人。
背が高く、手足も長いのでまるでモデルと間違うかのようなプロポーションが取れた体。
おまけに顔は嫌みな程に整っていて二重瞼の目はキリッとしている。鼻も高く、唇も美しい。
髪はセットしたか分からないほどゆるふわ感。茶色っぽい髪が余計にイマドキを漂わせている。
その上見た目だけが良いのではない。
性格はとっても良く、みんなに優しい。勉強も出来て、運動も出来る。らしい。
まさに女子と男子の理想が集まりに集まった人だ。
そんな彼は裏で最上級の王子様と言われている。(私はこのネーミングの悪さに笑ってしまう。)
けど、まさかあの彼が。
あの学校で女子の注目の的の彼が。
あんな、あんな、
『 眼、潰してあげようか?』
って言うなんて!!!

