「ああん?てめー生意気だぞゴラア!名前言ってみろよクソガキ」
チラリと壁に隠れて見るとガラの悪いおっさんが高校生か大学生ぐらいの男の人に向かって唾がかかりそうな勢いで掴みかかっていた。
暗くてよく見えないけど男の人はビビってはなさそう。
それにビクともしてない。
すごいなあの人。
おっさんは呪文のようにああん?ああん?と言っている。
おっさんはとてもキモイな。
そしてあの感じだと酔っ払ってるな。酒臭そう。
通行人はその様子をチラリと一瞥しておっさんと男の人を空気のようにスルーする。
きっとみんな巻き込まれたくないから。
私も巻き込まれたくないからそのまま帰ろう。
今日はなんてったって給料日なんだから。
立ち止まっていた足を動かして一歩、二歩歩いたときだった。
「おっさん、俺に名乗ってほしかったら自分から名前いいなよ」
罵声を言っていたおっさんじゃない、もっと若い声が聞こえてきた。
今さっきまで見ていた所を見る。
「はあ?何言ってんじゃお前。クソガキが」
と、おっさんも負けじと返すと男の人は着ていたダッフルコートのポケットからスマホを取り出してスマホの明かりをおっさんの顔に近づけた。
ウッと声をあげた目おっさん。
きっと眩しいのだろう。