夏が巡ると思い出す。



坂道を歩いていると、次々と浮かぶあたたかな記憶(おもいで)。




✽  ✽  ✽



担任に呼び止められて学校を出るのが遅くなった。最悪だ――と思いながら家路を急ぐ。蝉の鳴く夕暮れの坂の途中、自転車のベルが鳴る。



振り返ると、向日葵のような笑顔を浮かべた男の子が親しげに話しかけてきた。



「お〜やっぱり。椎名しいなさんや、覚えとってくれとるやろか?佐倉、佐倉蒼(さくらそう)いうんやけど」

「……」



何を話せばいいのかわからない……



引っ込み思案な性格が災いして黙ったままでいると、ふと視線が私の持つ手提げカバンに注がれ――。



「それめっちゃ重そうやん!女子が持つの大変やろ?よっしゃ、おれが椎名さん家まで一緒にいったるわ」

「……」



まだ黙っていると、急にしまったと大きな声で男の子が叫ぶ。思わず手提げカバンを落としてしまい、慌てて拾おうとしゃがみこむ。



図書室で借りてきた本が今日に限って数が多いため、もたもたしていると……男の子も自転車を留めて拾い始める。



「これおれも読んだわ。めっちゃ感動的な話やった……あ、これいって大丈夫やった?」



本気で心配そうな顔に思わず笑みが零れてしまう。