だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版






「しぐれ、もしかしてちょっと怒ってるのか?」




ちょっと不安そうに問いかけてくる櫻井さんの声に、昨日に水鳥さんから送られてきたメールを思い出す。




『明日、からかってあげるといいわ』




いつもの仕返しでもしてやろうかな、と悪戯心に火が付いた。




「怒るというより呆れてます。櫻井さんのこと尊敬してたのに、かなり幻滅しました。最近少し多くないですか?二日酔いで顔色が悪いの」




本当はそんなこと思ってもいないけれど、多分これを言われれば落ち込むであろう事がわかったので、口にした。



二日酔いになったところで、顔色が悪いだけでいつも通り。

その顔色の悪さだって、ほとんどの人が気付かないくらいだ。

使い物にならないと思っているのは本人だけで、周りから見れば普段と変わらない仕事量をこなしているのだ。

本当にこの人は二日酔いなのかと、疑いたくなる程に。



社会人として、会社でしんどい顔を出さないこの人を。

私は、とても尊敬している。




しかし、そんな事を知らない当の本人は、かなりしょげた姿になっていて。

バツが悪いのか、ちらりとこちらを盗み見るようにしか目を合わせてこなかった。

珍しく落ち込む櫻井さんの姿に、笑いがこみあげてきそうなのを必死で堪える。

ここで笑ってしまっては、何もかも台無しになってしまうから。